大河の動揺
「あぁ…………」
桜が出ていったドアを見つめている大河の目は、ただただ呆然と、そこを眺めてさえいれば良いと言わんばかりの視線を向けていた。
(桜は今何をした………? いや、実際のところ、分かっている。 何をされたかなんて、容易に想像はついている。 でも、そんなに我先にと行動するタイプじゃなかった桜が、まさかあんなことを……? いや待て、落ち着け俺。 確かにこういう経験は豊富とは言いがたいが、だからと言って小学校からの付き合いの奴の成長して可愛い顔して身体の一部分がそれとなく強調されてて俺好みのロングヘアーからいい臭いをさせている長い付き合いのやつの頬へのキスなんか………やばい。 こういう経験の浅い俺じゃ対処できない。 桜の奴、せこい手段を使ってきたな。 これじゃ考えを巡らそうとすればするほど桜のことが頭に浮かぶじゃねえか。)
とりあえず頭を冷やしたいと思って、そして、それとなく混乱している自分の目を覚ますために洗面所にいった大河は、自分でも驚くほどに顔が赤くなっていることに気づいた。
(はぁ……なにもしてないのもあれだ。 皆に言った通り、荷物の準備をするか。)
大河が多少冷静になり、洗面所から離れようとしたそのとき、裕希の声がドアの向こうから聞こえてきた。
「大河ー、もういくよー? 準備は大丈夫?」
桜の発言に驚いた大河が部屋の時計を見ると、既に部屋に戻ってきてから三十分が経っていた。
(以外にも早く時が経っていたんだな…。 てか、そもそも出発するって言ってから行動に移るのが早すぎるだろ……。)
「はいよ。 ちょっとだけ待ってくれ。」
元々散らかしていたわけでもなく、持ってきてるものが多いわけでもなかったので、大河は周りのものを少しまとめるだけで用意が終わるようになっていた。 ただ、未だに少し動揺している状態で裕希に会うと、なにかと弄られそうなので、大河は少しだけ間を空けた。
「了解ー。 荷物の積み込みも始めちゃうから、皆、外にいってるけど、変に慌てないでね。」
「ああ、分かった。」
裕希が遠くに行くのを足音で感じとると、手近にあったタオルを持って、動揺を抑えるために冷水をかけた顔を拭いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「大河、お前の荷物は大丈夫か?」
大河が外にでると、宗次郎が声をかけてくる。 大河が準備を終わらせ、皆のもとに行くと、大河以外は全員荷物を積み終わっていた。当然夜、更に目立ってはいけないので既に周りは暗く、戦闘機の光が周囲をよく照らしていた。
「あ、ああ。 これで大丈夫だっ……と。 まあ、なにか忘れてたとしても、移動先でなんだかんだ揃えられるだろ。 特に大地は、弾は残ってるのか?」
大河が自分は大丈夫だということを伝える。 大河は共にボスらしき相手と戦ってくれた相方の手もちが気になり、一声かけた。
「俺なら大丈夫だ。 なんだかんだちゃんと撃てたのは四人で行動してた時で、大河と戦った奴の時は弾が効かなかったから、充分に使えなかったって所もあるが。」
声をかけられた大地は、自分の手持ちを教える。 大地からしても、今回の自分の結果はあまり喜べるものではなかったようだった。
(確かに今回の敵はこの剣がなけりゃ勝てなかったよな。 凛曰く斬空刃だっけか。 剣は通らねえし、銃弾は弾くしで、なかなかに苦戦した。 今後同じタイプの奴が出てきたら、そこでもまた斬空刃は通じるだろうか……。)
「大河、何ぼやっとしてんの。 早く乗りなよ。」
大河が今回の敵との戦闘、そしてこっからの戦いを考えていると、後ろから声をかけ、背中を押してくる人がいた。
「なっ、なんだよ、桜……」
(あぁー、くそっ。桜の事がまともに見れねえじゃねえか。 早くなんとかしないとな。)
「ん? どうしたの?」
大河が顔を背けながらぎこちなく返事をすると、桜は余計に顔を見てくる。
まるで、大河の反応を楽しんでるかのようだった。
「わ、分かったよ。 乗るよ、 乗る。」
大河がそそくさと戦闘機に乗ると、その様子を見ていた凛が怪しげに大河を見る。
「なっ、なんだよ、凛。」
桜があ変なことをしたせいで、凛にまで慌ただしい反応を見せてしまう。 その様子を見ると、凛は何かを察したかのような反応を見せた後に、くすっと笑った。
「なんだよ、急に笑って。」
「いや、なんでもないよ。 大河も年相応な所があるんだなーって。」
(凛も俺のこと馬鹿にしてやがるな。 こんな対応してたら当たり前か。 なんとかしなきゃな。)
凛の反応を見て、更に居場所がなくなった大河は、どうしようもないのでひとまず普通でいられる大地の隣に座った。
「どうした、急に隣に座りだして。 さっきっから、なんか怪しいぞ。」
急に隣に来た大河を見て、大地が軽く引いたような顔を見せる。
「うるせえ、今はとりあえずここしかいられない気がする。 なんとなくだけどな。」
流石に同じ男として馬鹿にされるわけにはいかないので、大河はここぞとばかりに自信満々に言う。 それでも少しは声が震えていたが。
「……まあいい。 そんなことより、もうでるみたいだぞ。」
大河が大地の指をさすほうを見ると、宗次郎が操縦者との話を終わらせていた。
「よし、皆、大丈夫そうだな。 もうここには戻ってこないが、まあ何より、全員無事な状態で次の場所に行けるのが一番よいことだ。 次の場所がどういう風になるか分からないが、この先も気を付けるぞ。 いいな?」
「ああ、勿論だ。 どんな奴が来ても絶対倒すさ。」
宗次郎の言葉に、大河は自らの意思を表す。 残りのメンバーも全員うなずいた。
「分かってるさ。 じゃあ、ここを出ようか。 出発してくれ。」
操縦者にこえをかけると、一つ頷いて、そのまま戦闘機を操縦し始めた。
(さて、この斬空刃をどう使うか……。 こいつは次も上手いこと使えるといいんだけどな。)
自分の太刀を見ながら、大河はほんの少しだけ近づいた夜空を見つめていた。
一日遅れてしまいました。 申し訳ありません。
だいぶ話を先のばしにしたような内容になってしまいましたが、とりあえずこれで次からは新しい舞台、関東編に入っていきますので、よろしくお願いいたします。




