桜の策
「大河。」
部屋にはいって荷物の支度を始めていた大河は、裏からこんなにもすぐに誰かの声が聞こえてくると思っていなかったので、多少驚いていた。
「ん? なんだよ、桜。」
大河が振り替えると、そこには昔から見慣れた、いや、見た目だけはかなり大人びたが、馴染みの姿があった。
(こうみると桜も大きくなったよな……特にこう、裕希とは違ってなんというかだな……)
こうやってまじまじと桜を目にすると、なんとも視線をどこに向けたら良いか分からない身体つきをしている。 大河もリーダーだなんだと言っても一人の健全な男子である。とりあえず変な妄想が浮かばないように、視線を右往左往させていた。
「それで、大河は今日はどうしたの? なんかいつもと感じが違うけど。」
大河がそんなことを考えながら突っ立っていると、桜は壁にもたれかかって話始めた。
「ん? いや、特に何もないけど。 てか、桜自身がきたってことは、裕希に触発されたな?」
大河はリーダーとして、というよりも昔からの性格で、「何もない」と定型的な言葉を返し、その後に桜の心を突くような怪しげな笑みを浮かべて聞き返した。
「ふっ、 やっぱりバレる。 そりゃ、小学校から一緒なんだから分かるか。 でも、それが分かるなら、私が来た理由も分かるよね。」
大河に一発で見破られるのは分かっていたのか、桜はまるで動揺せず、次の質問をした。
「ん? いや、だからあれだろ? 裕希に声をかけにいけって……」
「それもあるけど。」
大河が答えた時、桜はその答えでは足りない、というように、首を横に振った。
「大河には、もう少し自分のことを考えてほしいなと思って。」
「え?」
桜の答えに、大河は多少驚いていた。
「つまりは、俺が自分をどうでもいいと思ってるってことか?」
「なんていうか、大河からしたら自分のこともしっかりと考えてるのかもしれないけれど、私たちのことをとにかく優先してくれるよね? たとえそれが些細なことでも。 それはすごく嬉しいし、私たちも助かってるから感謝しているけど、私たちのことを重く背負いすぎてると思う。 大河は今、私たちの家族が、私たちがこの戦闘に関わってることを認めてるのかどうかが気がかりなんでしょ。」
「ああ、まあ、そんなところだ。」
桜の質問に大河は頷く。
(桜にこんな風に言われるのもなんだか懐かしさがあるな……)
これまでは大地が自分に色々と伝えてきたり、助けてくれたりしていた。 ここまで桜が自分に助言してくれるのは二、三年ぶり位なので、大河は桜が折角大切なことを伝えてくれているのにも関わらず、どこか楽しく思えた。
「それに関しては本当になにも考えなくていいと思うよ。 裕希に関してはそもそも親に聞けないけど、それでも裕希の両親は裕希が友達のために動くことを否定するとは思えないし、私もここに来る前に家には連絡をしてある。 それは大地も同じ。 大地なんか、それはもう自分の気持ちを熱弁してたね。 見てて笑えるくらいに。」
「だけど、もし結果として誰かが死んじまったら……」
桜の説得に、大河の気持ちは傾き始めていた。 しかし、最悪の結果を考えた時、それを想像すると、大河は桜の話から素直に考えを入れ換えることが出来なかった。
「もし大河が死んだら、私たちも同じだよ。」
「えっ?」
桜の思いがけない一言に、大河は戸惑った。
「私たちを助けてくれたのに、その感謝の気持ちから大河を助けようと思ってるのに、その張本人が死んじゃったら私たちはただ助けてもらっただけになる。 そんなの絶対に嫌だ。 助けてもらうだけで返せないのなんて。 だから私たちは皆ここにいるの。 分かる?」
「…………」
桜の新たな意見を聞いて、大河は黙りこくった。
「ね? だから、大河の気持ちに似たものを、私たちも多少なりとも感じてるの。 だから大河だけが深く背負ってる訳じゃないんだから、もう少し気楽に考えて。」
そう言うと、桜はもたれかかっていた壁から離れ、大河に近づいてくる。 その可憐な顔立ちとは違う大人びた雰囲気、そして成長した身体をまじまじと正面から見るとなんとなく照れてしまい、大河は顔を背けた。
『ちゅっ』
「!?」
大河が今起きた出来事を理解できずに瞬時に顔を桜に向けると、頬を赤らめながら可憐な顔によく似合う可愛らしい笑顔を浮かべ、桜は部屋から出ようとしていた。
「お、おい! 桜!」
「どうせこれだけいっても今の大河が素直に折れてくれないことくらい分かってるの。 だから、多少の時間別の考えごとでもしてて。 じゃあね。」
そう伝えると、桜は長い髪を揺らしながら部屋から出ていった。 恐らく、いや、確実に口づけをされた左頬を撫でながら、大河はまんまと桜の考え通り、そっちで頭が一杯になっていた。
47話を読んでくださり、ありがとうございました。
次回で今の舞台である九州から飛べればなと思っています。




