帰還、悔いを残して。
「………大河! 大地!!」
まだ少し距離がある所で、裕希の声が響く。 見えない壁の外に出て、もう一度それを作動させたあと、 二人はただひたすらに皆がいる建物に向かって歩いていた。 そして、ようやく見慣れた四人が目に入ったのだった。
「良かった……無事だった………!」
桜が涙を目に浮かべながら二人を迎える。 四人の中でも特に他人のことを思う桜の性格から察するに、かなりの心配をしていたのだと思える。
「はぁ……はぁ……生きて帰れたか、俺たち……っとと。」
大河がほっと息を漏らす。 それと同時に糸がぷつっと途切れたのか、急激に疲れが出てしまい、少しふらついてしまった。
「大河、途中から音が入ってこなくなっちゃってたけど、大丈夫だった?」
凛が心配そうに声をかける。 どうやらかなり不安だったらしく、見るからに精神的に疲れているのが分かった。
「ああ、大丈夫だ。 というより、そっちも通じてなかったんだな。」
「うん。 多分機械が壊れちゃったかな……。 そこも直しておかないと。 本当にごめんね。 もしかしたら死んじゃってたかもしれないのに……」
普段は皆よりも冷静な凛がまだ謝っている。 過去を知っているばかりに、ここは強気でいっておくしかない、と大河は感じた。
「そんなにすぐに死ぬ俺じゃねえよ。 守るって決めてんだからな。」
「………ふふっ、少し安心した。 ありがとね。」
大河の言葉を聞き、凛は笑みをこぼす。
(これでいい。 俺がどれだけ犠牲を払ってでも、ここにいる皆、そしてまだ生きてくれているかもしれない父さん達を守るんだ。 その為なら……)
「そうだ、宗次郎、大地がやばいから今すぐ治療してやっ……」
大河が大地の体調を思いだし宗次郎に話しかけようとしたが、周りを見ても二人の姿はなかった。
「二人ならとっくに救護室に向かってるよ。 あの状態でよく戻ってきたよ、本当に。」
裕希が二人の居場所を説明する。 皆に少しの言葉もかけずに行ってしまう辺り、やはり大地もかなり我慢していたようだった。
「あれでも最後は大地を休ませて敵を倒してきたんだぞ? というか、俺も傷が隠れてるだけで、脇腹と太股がざっくりなんだけどなぁ。 俺のことも多少は気にかけてくれよ…。」
「それだけ元気なら誰も気にしないよ。」
大河が冗談混じりに愚痴をこぼすが、裕希の一言にものの見事に崩された。
「おいおい、これでも一連の流れの立役者なんだけどなぁ…」
「あははは……」
桜は中立を保ってるのか、優しさからの気遣いなのかは分からないが、苦笑いだった。
「まあ、俺自身も、
今の痛みより戦闘中に襲いかかってきた痛みの方がよっぽど酷かったからな。 あまり今は痛みを感じないんだ。 傷が悪くなっちゃあれだし、俺も少し休んでこようかな。」
「うん。 ゆっくり休んできて。 お疲れ様。」
凛が改めて声をかけてくれる。 そのありがたみを素直に受け取りながら、大河は自分の体の大事をとって大地のいる救護室に向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……おっと、宗次郎もまだいたんだな。」
大河が部屋に入ると、そこにはベッドに横になってる大地と、そのすぐ傍で椅子に座ってる宗次郎が見えた。
「大河、さっきは声をかけそびれてしまってすまなかった。 本当にお疲れ様だ。」
宗次郎の顔は無事に皆が戻ってきてくれて良かったというよな顔にも、だが、大河や大地の状態を見て不安を感じてるような顔にも見てとれた。
「ああ、別に気にしてねえよ……いってて。 とりあえずは帰ってこれたことだけでも神にでも感謝しとこうぜ。」
大河は大地の隣にあるベッドに座り込み、ようやく一息つけたように伸びをした。 当然脇腹が軽く悲鳴をあげたわけだが。
「こちらとしても不十分なまま四人を、特に大河を送り出してしまった。 今回のケースは十分に予想できたものだったのだが……」
「やっぱ祖父と孫だな。」
「ん?」
宗次郎が申し訳なさそうに謝りをいれる雰囲気になった時、大河が言葉を遮った。
「今回に限らずだけど、これからの戦い、十分に、完璧に、なんてものはほぼ必ず手にすることは出来ねえんだ。 だから一々そんなに申し訳なさそうにすんなよ。 そりゃ心配なのは分かってる。 友人の息子だもんな。 死なれちゃ困るし、後でもし父さんと会えたとして、死んでたらどう詫びればいいかもわかんねえだろうよ。 でも、それは俺らだけじゃどうしようもねえじゃねえか。 敵の動きかたや、なんならその時の偶然、運命っていうのか。 そういうのも絡んでくる。 だから、凛もだけど、そこまで背負いこまないでくれよな。」
大河の一言を聞くと、これまた凛と同じように少しほっとした顔を見せる。
(ここまでおんなじか…)
大河はその様子を見て、少し暖かな気持ちを感じ、自然に笑みがこぼれていた。
「んじゃ、俺も少し疲れたからこのまま寝るわ。 宗次郎も大変だったろうから、自分のやることだけやってゆっくりしててくれよ。」
「ああ、そうさせてもらおうかな。 ありがとな、大河。」
大河は宗次郎の言葉を聞くと、そのままベッドに横になった。 宗次郎はその様子を見届けると、部屋から出ていった。 当然大地は寝たままで、大河も宗次郎に伝えた通りそのまま眠りに入った。
「………一戦目からこの有り様か。」
自分のなかに多少の悔いを残しながら。
42話を読んでいただき、ありがとうございました。
次の話から、また別の舞台に移る流れになっていきます。




