出発
「…………え?」
大河は宗次郎の言っていることが、よく理解できなかった。いや、これは今までの理解ができない、とは違うもので、言っている内容自体は理解がついている。つまりは、こいつ正気か?という方の「理解ができない」である。
「………もう一度言う。大河君。武器をとるんだ。それしかこの状況で、家族を救う方法はない。」
大河は更に衝撃を受けた。俺が戦う?確かに運動はできる。体力もあるだろう。持久走なんかでも上位にはいるし、勉強よりかは運動に特化していると自他ともに認めてもいる。しかし武器が関わってくると話が別になるだろう。当然そんな類いのものは持ったことないし実物を見たことすらない。そんな俺に武器をもって戦え?
馬鹿言うな。出来るわけないだろう。
「なにいってんだよあんた。俺は武器なんかまともに見たことさえない奴だぜ?それにもし俺が戦ったとしても、孤軍奮闘もいいところじゃないか。こんだけ大きなやつが相手なら尚更だろ。」
「じゃあ家族を見捨てるかい?」
「………」
家の中を沈黙が埋める。カチッ、カチッ。時計の秒針だけが鳴り響くことにより、更に静寂を感じられる。
「……日本は国として出てくれないのか。」
「言った通り、それは難しいだろうな。」
「他の国からの要請は。」
「日本との国としての仲がある。まず出来ないだろう。動くとしても、その国の技術を取りに来た時にようやく防衛が正当化できるから、日本の中ではないだろうな。」
「……………」
「大河君、動くなら今だ。向こうはまさか残された高校生一人が武器を使って仕掛けてくるなんて思ってないだろう。つまり今なら君に様々なことを伝えられる。今始めた方が、極論生き残れるんだ。上手くいけば、家族も。」
………………
更に時間が過ぎていく。宗次郎にはとても長く、かつこれまでにない緊張感の中で過ぎていくものであった。
大河は逆に短く感じられた。考える時間がほしい。だが選択は今しかない。今を逃したら、もしかしたら……。夜も更けている。外は更に暗闇に閉ざされていて、まるで大河のこれからに希望の光がないかのようであった。
(………なら俺が光を作り出してやる…………)
「…………………やるよ。」
「ん?」
大河は顔をあげ、真剣な眼差しを向けた。
「俺はやる。やってみる。いや、やってやるさ。相手がでかい?俺が一人?武器を使ったことがない?知ったことか。こうなったらやってやる。
死ぬ気で、家族を救い出してやるさ。」
その言葉を放っている大河の顔はいまだに暗いほうだった。だが、これまでにないほどの真剣な顔つきと、この発言までの間で、宗次郎はすべてを理解した。
「…………できるのかい?」
「やるしかないんだろ?」
「当然危険を伴うぞ。家族に会う前に死ぬのだって当然の話になる。いまの友達だって会えなくなる。というよりかは、これまで通りの生活なんてまず送れなくなるよ?」
「うるせぇなぁ。こっちが気持ち決めたんだ。揺らぐような事を言うなよ。
…………そりゃ俺だって内心できるとは思ってないさ。上手くいくなんて考えられない。どうせどっかでやらかして捕まる。んで父さんたちと一緒にお陀仏だ。…………でもよ、やらなきゃどっちみち駄目なんだろ?やるしかないんだろ?じゃあこれしかねぇじゃねえかよ………くそっこんなんで震えやがって……………俺も根性ねえな…………ははっ。」
大河はしっかりと言った。だが、大河の足は、いや全身はガクガクと震えていた。その様子をみた宗次郎は大河の覚悟の強さを悟った。
「分かった。………共に戦おうじゃないか。」
「そういえばさ、ええと……宗次郎さんは一体何者なんだよ?俺の周りでそんな裏のこと詳しいのみたことなかったぞ。」
そういえばこの人の素性をほとんど知らなかった。そこも聞いておかないと、何があるか分かったもんじゃない。
「私のことは宗次郎でいいよ。私も大河、で呼ばせてもらうよ。こっからは信頼も重要な要素の一つになる。
私の正体はそうだな………実際にモノを見てもらった方が早いかもしれない。ということで大河、ついてきてくれるかな?」
大河は別に構わない、と頷いた。
「ああ。でも、この家どうすんだよ?」
「ここはうちの者に任せるから大丈夫だよ。」
「うちの者?」
(この人もなんかの組織の人なのか…?)
大河は少し不安になりながらも、もう信じるのはこの人だと決めた、ということでそこは質問しなかった。どのみちこのあとついていったら分かる事なのだから。
「それじゃ、すぐに出発するよ。日用品は特に必要ない。向こうに用意しておくから。どうしても必要なものだけ用意して、車に乗ってくれ。」
大河はまたも頷いた。
「これで大丈夫だ。」
「………この家を見ときな。もしかしたらもう戻ってこれないからね。」
(そうか……。全く知らない場所で死ぬんだろうからな、俺。)
大河は軽く家を見渡してから、車に乗った。
「少し距離があるから、眠っておくといい。ついたら起こしてあげるよ。」
「ああ、分かった。」
そして大河は座席で横になった。窓から見える夜の空。やはり星すら見えない暗闇であった。しかし、雲の切れ間から、満月が顔をだし光輝いていた。
第四話を読んでいただき、ありがとうございました。大河が遂に気持ちを固めました。果たしてどうなっていくのやら…




