選択
「………誰ですかあなた。」
その相手を前に、大河は未だにぶっきらぼうに声をかけた。
「そうか……君には直接あったことはなかったね。 私は今言った通り、あなたのお父さんの知り合いだよ。 最近はあまり会えてなかったんだが……。
会いたいなと思ってはいたんだが、こんなことになってしまうなんてな………」
(うるせぇ………)
「だが、君の助けになれるのはまず間違いないだろう。しかし、それには君の努力と根気が必要になってくるんだ」
(うるせぇっつってんだろ…………)
「とにかく君には様々な内容の実態を知ってもらわなければならない。君の家族を救う………」
「うるせぇんだよ!!!!!!」
……………………………………
現場に流れる沈黙。 周りに人は見当たらない。 それが余計にその場の空気を重くしていた。
「………すまない。一先ず君が落ち着くまで待って、それから話をしてみたい。 いやさせてほしいんだ。 この通りだ、頼む。」
そう言うと宗次郎は頭を下げてきた。
「いや、ちょっと待てって……」
そのまんま追い返してやろうと思っていた大河は、自分より目上の人に唐突に頭を下げられて軽く躊躇った。 しかし、やはりまだ信じられない。 どうするべきか……。 そんな風に思っていた時、宗次郎が切り出した。
「信じられないなら証拠を見せようか。 ほら、これでどうだい?」
そして差し出したのは、
(これ、この人と…………父さん?)
まぎれもなくその二人であった。 今より若い二人が映っている写真を見て、流石に大河も少しは信じてみる気になった。
「信じてくれたようだね。 ありがとう。 君の心境はとても私なんかでは理解しがたいものとなっているだろう。 しかし、だからこそこの実態を理解するべきなんだ。 君がこれからどうしていこうが、家族がああなっている以上君とあの組織は繋がらざるを得ないんだから。 ………ここではなんだから、君の家で話してもいいかな?」
大河は頷いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「この家も懐かしい。 」
宗次郎は部屋を見渡しそう言った。 大河は一応お茶を用意し、対面する形で座った。
「まずは、話を聞いてくれてありがとう。 私も君に話したかったんだ。 君の………いや、大河君の家族が捕らわれるなんて知っていたら、前々から伝えていたものを…」
「いや、そこら辺の同情とかはいらない。 単刀直入に、そして簡潔に話してくれ。」
今の大河はこれまでにないくらいの真剣さだった。自分で理解できるかは分からない。 それを聞いたとして、果たして俺に何ができるだろう。正直何も出来ないのではないだろうか。 宗次郎さんは話したいという。 俺に伝えておきたいといってくれる。 しかし、そこから導き出せるものにも限界ってもんがあるだろう。 街頭ビジョンを乗っとり、日本を敵に回したも同然の相手なら尚更だ。 だが、聞かざるを得ないのもまたひとつ結局の現実である。 そんな様々な思考を繰り広げていた。
「…結局のところ、あいつらはなんなんだ。 俺には何ができるんだ。」
「声も静まってきたね。 今なら多少なら判断できる状態だろう。 では、話していこうか。 あいつらの組織名はHell Burn。 俺らじゃめんどくさくて片仮名表記で書いちゃうんだが、まあ地獄と燃えるっていう何ともそれっぽい名前のアレだ。 リーダーの名前はジェーダ。 こっちに関してはただのコードネームとかなんとかだろう。」
「………なんか痛いっすね。」
「まあそれが現に日本征服しようってんだからおかしなことなんだけどね。 そして次に、じゃあ何故こいつらがそこまで大きく出てこられたか、だ。」
そうだ、と大河は思った。 そこが一つの謎な部分だった。 そして、それに対する答えを出す前に宗次郎は言った。
「答えは簡単だ。 あいつは言っただろう? 『裏のグループ』だ、と。」
「あっ…」
「そう言うことだよ。 ようは表企業がでかいんだ。 聞いたことはあるだろう? 『メビウス』って」
「はい、聞いたことくらいは。」
いくらあまり政治などに興味のない大河とはいえ、その企業名くらいは聞いた事があった。 俺が物心ついた頃には既に大企業となっていた「メビウスコーポレーション」いわゆるIT関係の企業で、そっちの道の話を聞くと大抵名前が出てくる企業である。
「そんな大企業の裏のグループだ。 大河君だってどの規模かは察しがつくだろう。」
大企業の裏のグループ。 それだけでも非現実的だと思っていたが、それが今、現実となってしまってることに大河は更に困惑している。
「ちょっと待ってくれ。 そんな大企業が何故危険をおかしてまで日本を取りにきてるんだ?」
大河は新たに出てきた質問を投げ掛ける。
「先取りだよ。」
「え?」
大河は更に不思議に思った。
「これもあいつが言っただろう? 『近未来型兵器の資料』と。」
(そういうことか……)
「大河君も察しがついたようだね。 そういうことだよ。 つまり近いうちにまた兵器を使った戦いがおきる、と上は予想しているんだ。 確かに現代の技術進歩により物資や領土をめぐっての争いは減ったかもしれない。 だが、その生活になれてしまうと、人間というのは恐ろしいものでね。 更に上を目指す。 その考えに至ると、今の自分達が保有できている技術は、それまで高いものだと思っていたはずなのに、何故かレベルの低いものだと考えるようになってしまう。 そこで他国、または他企業の技術を取るのが一番手っ取り早い方法になるんだ。 だが、国家間の争いになるとまた面倒になる。 であれば、企業が取り、その技術を利用すれば、その企業のある国が勝手に便利になってくる。 だから大企業のメビウスが取りにいってるんだ。 国家間のいざこざを避け、かつ今回のように裏を使って完璧に動ける。 そんな行動力のある企業が。」
「だけど、今回みたいにあんだけ大々的にやらかしちゃったら、日本も国家として動かなきゃいけないだろ? だったらすぐに終わるんじゃないのか?」
大河は出てくる質問を次々に投げ掛ける。 とにかく今は自分の中に疑問というものを残しておきたくなかったのだ。
「それがそうもいかないんだよ。 今言った通り動くのは国家か大企業だ。 そして今回は後者が動いた。 つまりはどっちが動くにしても手にはいるものはより良い技術に変わりはないんだよ。 だから国家は動く素振りは見せる。 しかし決定打は打たないんだ。 打ってしまうと企業が厳しくなるからね。 そうなれば企業は外国にいけばいいだけになる。 メビウスのような大企業なら、更にね。 」
「だけれど、じゃあなぜわざわざ大企業が単独で動いたんだよ。 国家との連携で……あっ、そうか。」
大河の中にまた一つ疑問が生まれたが、それもすぐになくなった。
「そうだ。 国家が協力していくとそれは国家も相手の技術を取りにいってるのと同等になる。 つまりは国家間のいざこざがほぼ不可避なんだ。 だが、恐らく今回はそれだけではない。 メビウスは更に裏がある。 恐らく国家と動きたくないような内容がね。 それはまだ私にもわかってないが。」
(話を聞く限り、俺だけではどうしようもないものだ。 話がでかすぎる。内容は大体理解したが、それで俺に何ができるってんだ?)
大河は考え込んだ。 大方の整理はついた。 しかし難しい。 ここまでを聞いて、自分に出来ることがなんも見当たらない。 そしてこの疑問もすぐに投げ掛けた。
「……もう一度聞くけど、結局俺には何ができるんだ。」
……………ふぅ。
宗次郎は一息つくと、真剣な目でこちらを見た。
「大河君。 武器をとろう。」
3話を読んでいただきありがとうございました。
ついに次回で、大河の選択が行われます。




