隠密
「昨日はなんもなくて良かったな。」
「ああ。 初の実戦で向こうから攻めこまれちゃやってらんねえしな。 自分達の流れで進められるだけでもいい。」
二人が起床し、何気ない会話が展開される。 本来これから戦のど真ん中に突っ込んでいく朝なわけだから、もう少しお互いに緊迫感があっても良さそうに思えるが、よく考えれば出発すると二人で覚悟を決めたと思ったら出発できず、こっちにきてすぐに戦闘かと思ったら一日空けたのだから、逆にそこまで気が張ってなくて良いのかもしれない。
「昨日はどっかで撃ってたのか?」
「いや、メンテナンスで終わらしといた。 宗次郎さんはああいってくれたけど、ぶっちゃけこのハンドガンしか使う気にならない。 というよりは、使えないな。 今後のことを考えて、少しは触れておかないといけないんだが…………。 そういう大河は太刀、大丈夫なのかよ。」
「俺も体を動かしただけで実際に物を斬った訳じゃないからな。 心配いらねえよ。」
…………………会話の内容はとても高校生二人の起床一発目とは思えないものだったが。
「今何時だ?九時には動くんだろ?」
「えっと……………7時過ぎだ。 もしかしたら向こうで話があるかもしれないから、すぐに皆のところにいこう。」
大河に聞かれて時計を確認しつつ、大地は身支度を整え始めていた。 ここに戻ってくるか、それとも脱出次第すぐに移動かが確定でない以上、一応やっておく必要があった。
「なるほどな。 じゃ、準備が終わったら一旦あっちに行くか。」
「ああ。」
それぞれ用意を終わらせに入った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ、大河、大地、おはよー」
「おはよう、二人とも。」
二人が旅館のロビーにいくと、他の皆はもう荷物も持ってきていた。
「皆はやいな。 ちゃんと寝たか?」
「私たちも話そうと思ったけど、大河が寝てねえのかってうるさそうだからちゃんと寝たよ。 ね?」
「裕希、まるで私たちも大河をそんな風に見てるみたいな言い方しないでよ。 少し話してから普通に皆すぐに寝たよ。」
「私も裕希や桜のこと知れたし、面白かったな。」
「ほう…………………つまり裕希だけは俺をそう見てると。」
「いや、いやいや違うって!今のノリはほら、よくあるじゃん!それっぽく言おうっていうあれだよ!ねえ!」
「……………アホか裕希。 焦ったら確信犯だろ。」
「あ……………………。 うん、まあ仕方ないね。」
「裕希は心理戦になったらやってけるのかなぁ………………。」
「あは、ははは……………………。」
「はぁ………………。 まあいいや。 宗次郎のとこに行くぞ。 この後飯食ったらすぐいくんだから、あんまり今動いとくなよ?」
「は~いはいっと。」
誰一人緊張を感じてないのか、それとも隠してるのか。 とりあえず全員元気なまま迎えた朝となった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「よし、私たちはここの一室から君たちをナビゲートしていく。 それぞれの動きは昨日伝えた通りだ。 道中、もしくは戦闘中に何かあったら何が最優先かはもう理解してるな? 」
「ああ。 無理はしねえよ。」
全ての準備を終わらせ、再度ロビーに。 宗次郎と凛は既に改造した一室に籠り、ナビの準備を始めている。前線組は先程とは身に付けてるものが明らかに違い、大河と裕希、大地は腰付近に、桜は背中に武器を用意している。 更に、大地に関しては全身に銃弾を仕込んである。 動きにくいのは承知の上だが、こちらから攻め混む以上持てる分を持ってくしかなかった。ちなみに桜の剣のスタンダードな長さは1.2m。 昔のレイピアとほぼ同じものとなっている。
「よし、じゃあ向かってくれ。 これ以上は言っても逆に困惑するだけだろう。 施設付近にいったらもう一度こちらに連絡を頼む。 それじゃあ、一旦通信を遮断するぞ。 では。」
それだけ言うと、一度宗次郎は通信を切った。 ほとんどないだろうが、一応追跡対策だ。
「行こう。」
「ああ。」
「うん。」
「だね。」
大河の短めな指示を受け取り、全員が気を引き締めた。 まずは敵地に無事に辿り着く。 それが第一目標だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あー、あー。 聞こえてるか? こちら大河、敵地付近に潜伏中。 もう突撃できるが、セキュリティ方面はどうなんだ?」
「聞こえてるよ。 今のところ特に何も仕掛けてないみたい。 まあ向こうからしても迎え入れて戦えるなら楽だろうしね。 見つかったら情報はすぐに伝わるから、一人でもバレたらやれるだけ暴れて。」
「了解。 これはつけたままでいいのか?」
「うん。 こっからはオンオフがすぐにできるとは思えないから、ずっとつけといて。 ……………………無事に戻ってきてね。」
「ああ。 任せろ。」
凛からの指示を受け、大河は進んでいくことを決意する。 侵入する建物は、地上に出ているところはそんなに大きくなく、一般人から見たら普通の事務所か何かに見えるだろう。 恐らく、あいつらの建物のほとんどは地下に埋まっているはずだ。 全体的に監視カメラ等のセキュリティもしっかりしてるようだが、そのためか警備員は見当たらなかった。 お陰で入りやすいが、その分怪しさもましていた。 だが、本来はそこに一人でいるはずの場所に、裏に頼もしい者たちがいる。 それが励みになった。
「凛の指示通り、このまま裏から入ってく。 始めは隠密、見つかり次第暴れろ。 特に桜、裕希。 どうやら敵の地下は広いらしいから、 二人は出来る限り暴れてくれ。 大地、お前は一歩引いて援護だ。 お前が無理をする必要はないが、常に周りに気を付けろ。 俺は全体を見ながら桜の援護につくことが多いだろう。 大地に敵が近づいてきたら基本俺が殺る。 いいな?」
「「「了解。」」」
三人の声が揃う。
「よし、行くぞ。 静かに進めよ。 先頭は俺、殿は大地だ。」
少しずつ、少しずつ敵地に進んでいく。 正真正銘、命を懸けた勝負が静かに火蓋を切った。
31話を読んでいただき、ありがとうございました。
次話、戦闘に入ります!




