覚悟
「………………ごめん。 ありがと。」
ひたすらに泣いた後、凛は少し気恥ずかしそうにそれだけ告げ、資料室を去っていった。
「…………………………」
大河もただただ突っ立っていた。
(俺は今何をしたんだ……?)
そんな気持ちが大河の中にはあった。 今まで生きてきた中で、人を助けたり、気にかけてあげたりはしたことがあったが、ここまで相手の立場になって、必死に考えて行動したのはなかったはずだ。 今考え直しても、正直今の行動はないだろう。 ただ話しかけて説得するだけならいいものの、後ろから抱きついたなんて、端から見ればただの変態だ。そんなことを考えると物凄く恥ずかしくなり、大河はその場を離れようとした。 この場にいたくないという気持ちからの行動だったが、そんな希望はすぐに崩れ去った。
「大河?何してたんだ?」
ドキッとした大河が声の方向に顔を向けると、宗次郎がそこにいた。
「何か凛と話していたみたいじゃないか。ここで困ったことでもあったかい?」
「あ、いや。 ちょっとな………」
大河が上手いこと誤魔化せずにいると、宗次郎は頭をぽんっと一回叩いてきた。
「……………大河、ありがとう。 実はあそこまで話したのは私と大河だけだよ。 あれだけ話すことを嫌がっていた凛がこんなすぐに他の人に話すようになるとは………。 家族が駄目なら友達、か。 私では考え付かなかったものだよ。 大河は家族以外も救えるのかもしれないな。」
「んなことあるかよ………。 俺だってなんであんなことしたのかわからねえんだ。 今考え直しても酷い行動だろ。」
大河は軽く否定した。だが、
「どうだろうかね。 凛は何となく思い出したんじゃないかな。 大きい男の背中、というものをね。 それに大河があんな行動をとったのは、大河が一番分かってるんじゃないか?」
と言って去っていってしまった。
(俺が一番わかる………)
大河はその答えをすぐに理解していた。
その日から大河はより急ぎ、体を作っていった。 大河を急かした何よりの要因はやはり凜の過去であった。 連れ去られてから当然向こうからの連絡なんてものはない。 つまりどうされているかを知る術はない。 だが諦めなかった。 その理由は、向こうも容易には殺せないだろうと考えたからだった。 すぐに殺し、それを公表なんてしてしまったら国が企業の殺人という別の理由で動けてしまう。 向こうからしたら面倒なことこの上ないだろう。 これは前から思っている。 しかし凜の過去に触れたことによりその気持ちはより強くなった。 実例を聞いてしまったらどうしても急がずにはいられない。 大河は筋トレの量を少し増やした。
………数日後…………
その後なんの進展もないまま、凛との関係も以前と同じ状態でほっとしている大河だったが、その日は妙に体が緊張していた。
「大河。 ここまでよく粘った。 お前自信が気づいているかは分からないけど、見るからに変わった。 そこまできたら次に行けるだろうよ。」
それには大河も気づいていた。 自分の体は明らかに引き締まり、だがストレッチにより柔軟性は下がるどころか上がっている。 それのお陰なのか、最近は体が軽いことが多かった。
「……………それじゃ、これだ。 ほら、持ってみてくれ。」
大河は剣を受け取った。 種類は太刀である。
「まあオーソドックスなタイプの太刀だ。これと同じ形状、質量のものを特訓前に振っていたんだ。今はどんな感じだ?」
大河はそれに答えるかのように数回太刀を振った。そして宗次郎に頷いた。
(……………いけるっ!)
大河は手応えを確かに感じた。 少し前………といってもそこそこの日は経っているのだが、その時はここまで振りきれてなかった。 振った後も体がぶれてない。 体の重心を意識できる。 何より振り終わった後次の動きに移行できそうな感じた。 これも筋力や柔軟性を鍛えたお陰だろう。
「………いけそうな感じだな。 よし、それじゃこれを見てみろ。 ある意味驚くかもな。」
「え?」
大河はなんのことかわからなかったが、とりあえず渡されたタブレットの画面を見てみた。
「………………ん?この人って………………」
画面には見たことのある人が映っていた。しかしどこか見たことのある時と違ってはっきりとはわからない。
(ええと……………………………ってはぁ!?)
ようやく気づいた大河は驚きを隠せなかった。画面には大河の祖父、慶治であった。
「おい!?なんで俺のじいちゃんいるんだよ!!じいちゃんなら少し昔に死んじまったのにさ………」
宗次郎はその反応を読んでいたかのように
「そりゃそうだよ。 その慶治さんは今から15年も前の時だからね。 まだ自分が動けるうちに未来の武士に見せておきたいってね。 聞いたことなかったか?慶治さんが剣使いだったって。」
「いやいやいや、聞かないよそんなの。 そもそもうちの家系で剣使いなんていたのかよ?」
大河は未だに信じられない。 大河の知っている慶治はいつも優しくにこにこしていて、どんなときも周りを和ませているおじいちゃんだった。 それが目の前の画面で恐ろしい速度で剣を見事に操っている。
(しっかしやべえだろこの速度………まさに目にも止まらぬってやつだ。 しかも動きの一つ一つになんの迷いも余計な部分もない。 次の動きへの移行も上手すぎる。 ここまでできたら…………)
なんてことを大河が考えていると、これまた見破ったかのように
「ここまでいこうなんてやめといた方がいい。何年かかると思っているんだ。」
「ははは…………だよなぁ……………。」
「でもこれに近い感じになってもらわなければならない。 せめて形だけでもな。 形が近づけばあの試験は突破できる。」
(試験って………………竹切りか)
そう。 最初にやらされたバーチャル竹を切る試験である。
(今やっても変わらないんだろうな…………こっからはトレーニングと剣の上達もか。)
大河が現実的なことを考えていると、宗次郎は少し真面目な顔をして、
「ひとまず一通り動画を見たらその通りの練習を一週間やるんだ。 来週の今日、また試験をするよ。」
と告げてきた。 大河は動画を見ながら頷いた。 すると宗次郎は大河の肩に手を置き、
「実際に目の前でやってやれなくて悪いね。 でも扱える人はいないし、剣の資料はそこにあるものぐらいだ。 慶治さんが残したくないといってたからね」
と一言謝ってきた。
「いや、これがあるだけでもいいよ。 見た感じかなり有効だから、これ」
大河は素直に思ったことを言った。
………そんなことを話しながら動画を見ていると、最後にメッセージがついていた。
「この動画を最後まで見たということは、この剣術を学ぶ覚悟を持っているということだろう。とても素晴らしく思う。 だが、死ぬ気でかかれ。 それだけだ。 私の動きで何か伝わればこちらとしても有り難い。 もう一度だけ言おう。 君がどんな敵と対峙するのかは知らないが、場合によっては私を越えなければならない。 それだけの根性と覚悟をもってやれ。 そして乗り越えろ。 君ならできるだろう。」
その言葉で動画は終わった。
大河は実祖父の言葉にこれまで以上の重みを感じていた。
第10話を読んでいただき、ありがとうございました
次回、遂に試験です。




