第18話 前夜
「MOON、いよいよ明日だな」
「やめてくれ」
一ヶ月、あっという間だ。
明日、新人が月に来る。
「どんな子が来るのかなー。可愛い子かな? MOON先輩って可愛く言っちゃったりして」
ARTEMを殴りたい。
「あまりおちょくるのはやめてくれ、胃が痛いんだから」
「えー面白いのに」
ARTEMを殴りたい。
「でも本当に可愛い子だったらどうする?」
「普通に仕事を教えるだけだろ」
「えー、俺なら恋しちゃう」
「公私混同はやめろ」
「えー社内恋愛憧れる」
こいつは……
「ARTEM、俺はGALAXY部長とNIX先輩の期待を背負っているんだ。恋愛なんて……くだらない」
「お前、それでいいのか?」
「それでいいのかって?」
「俺たち、まだ若いと言われる年齢ではある。でもあっという間におじさんだぜ! 仕事で若者を過ごしてもいいのか?」
「まー、仕事嫌いじゃないしな」
「俺も嫌いじゃないけど! そーいう意味じゃなーい!」
ARTEMの気持ちもわかる。
でも、出会いもないし。
無理に探すほど、満たされてないわけでもない。
仕事は嫌いじゃない。
別に、楽しいわけではないが……
「そーいや、お前いつも一人で仕事してたんだよな?」
「そーだな」
「普通は二人から四人いるんだけどな」
「お前、今一人だろ?」
「危険な人類がいないからな!」
「そーかー」
そういえば、惑星の大きさによって監視人の人数が違うと研修の時聞いたな。
入社したての時は、NIX先輩と一緒に監視をしてたっけ。
「でも地球は違うだろ?」
「まー小さいからな」
「そうかー?」
「まー、一人でもなんの問題はない」
「でもさ、寂しくない?」
寂しい——月に配属された数年は、思っていた時期もあった。
だが、もう時期二百年経とうとしている。
「……慣れた」
「そうかい。今俺は寂しいよ」
「人手不足だな」
監視人は万年、人手不足だ。
「MOON、お前はずーと一人だったんだろ?」
「あぁ、さっきも言った」
「新人が来て、賑やかになるな」
賑やかか。
月は静かだ。
俺が歩く音、俺の飯食う音、俺の鼻噛む音——それくらいしか音がない。
ここに、新たな音が加わる。
カエデが死んで、これからがずっと、静かだと思っていた。
「楽しみなんじゃなーい?」
教育なんてめんどくさい。
そう思っている。
「……そうかもな」
「でしょ!」
だが、どんなやつが来るのか、少し楽しみになっている。
「今日はもう遅い、俺は寝るぞ」
「えー、もっと話そうよ」
「俺は明日早いんだ」
「新人ちゃんが来るもんね!」
「うるさい」
俺は通信を切った。
とうとう明日か。
どんなやつが来るのか。
どういうふうに教えればいいのか。
今日は寝れない、長い夜になりそうだ。




