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セレーナは帝国民に向けて通達した。
「奇跡は終わりました」
広場に集まった帝国民の顔を見渡す。防壁の上の民兵。避難所から出てきた非戦闘員。ダリオ。リーネ。トーマ。メイラ。八十人を超える人間の顔が、セレーナを見ている。
「しかし——私たちの畑は枯れていません。私たちの防壁は立っています。私たちの仕組みは、最初から奇跡に頼っていなかった」
ダリオが頷いた。隣の民兵が槍の柄で地面を叩いた。一つ。二つ。リズムが広がった。防壁の上の全員が、槍の柄で地面を叩き始めた。言葉ではない。音で答えていた。
「これからの世界は、楽ではありません。光の力が担っていた全てのインフラが停止しています。王国も、辺境も、全ての人間が——初めて、自分の手だけで生きることを求められます」
槍の音が止まった。
「しかし、あなたたちはもう知っている。自分の手で畑を耕し、自分の手で壁を守り、自分の手で家族を養う方法を。この帝国で学んだことが、これからの世界の標準になります」
セレーナは言葉を切った。
風が吹いた。朝の風。木の葉が擦れる音。焚き火の煙が流れる匂い。誰の力も借りていない、ただの——朝の風。
「復興は長く、泥臭い仕事になります。私が設計し、あなたたちが実行する。いつもと同じです。——始めましょう」
歓声はなかった。代わりに、人々が持ち場に戻り始めた。農業班が畑に向かい、建設班が防壁の修繕を始め、カイの訓練した偵察班が森の巡回に出発した。
派手な勝利宣言はなかった。
ただ——歯車が、いつもと同じように回り始めた。
それが、奇跡なき世界の最初の朝だった。




