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帝国の防壁の上で、ダリオが空を見上げていた。
淡い光の粒子が、まだ昇り続けている。地上から空へ。星に還るエネルギー。
ダリオの隣に立つ民兵たちは、槍を握ったまま動けなかった。戦いが来ると覚悟していた。血を流す覚悟をしていた。しかし——空が光っている。敵の陣営から怒号が聞こえる。何が起きたのかわからない。
セレーナの声が、拠点全体に響いた。魔術通信で増幅された、落ち着いた声。
「全帝国民に報告します。作戦は成功しました。勇者と星の接続を切断しました。奇跡のシステムは停止しています」
民兵たちの間に、ざわめきが広がった。
「しかし、まだ戦闘は終わっていません。討伐軍は混乱していますが、武装は残っています。防壁を維持してください。油断は——最も高いリスクです」
ダリオが槍の柄で防壁を叩いた。
「聞いた通りだ! 持ち場を離れるな!」
民兵たちが姿勢を正した。恐怖はまだある。しかし、持ち場にいる。逃げていない。
防壁の後方で、モルスが空を見上げていた。
淡い光が星へ還っていく。灰色のローブの隙間から、フードの奥の闇が空を向いている。
三百年前。
ティリアの地脈が枯れた時、空は光らなかった。ただ暗くなっただけだった。エネルギーは還らなかった。消えたのだ。完全に。取り返しがつかないまま。
あの時は——間に合わなかった。
今。
光が、還っている。
地面に。木々に。水源に。長い間奪われ続けていたものが、ゆっくりと、しかし確実に、元の場所に戻ろうとしている。
モルスの口が動いた。
声は本当に小さかった。誰にも聞こえないほど小さかった。
「……よかった」
それだけだった。
一語。
数百年を生きた存在が、三百年ぶりに発した感情。ティリアの砂漠を見た目が、今度は——光が還る空を見ている。
モルスのローブの袖が、微かに濡れていた。
結露だろう。朝の冷気が布に水滴をつけたのだろう。
きっと、そうだろう。




