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セレーナが壁に作戦図を描き始めた。
四人の役割が、それぞれの線として図に記されていく。
「作戦名は不要です。構造だけを説明します」
セレーナの声には、余計なものが一切なかった。
「ヴェルナー。あなたが陽動を担当します。討伐軍の正面に一人で立ち、聖騎士団の注意を引きつけてください。勇者リオンから護衛を剥がすのが目的です」
ヴェルナーは頷いた。腕の古傷を、無意識に握った。
「聖騎士団の残存は百五十前後。オルトは聖剣を失ったが、予備の長剣で指揮を執っている。俺が出れば、奴は必ず前に来る。——来なければならない。部下の前で、師に背を向けることはできない男だ」
かつての弟子の性格を、師は正確に読んでいた。
「モルス。帝国の防衛を維持してください。非戦闘員の避難誘導と、拠点の防壁の死守。ヴェルナーが前に出る間、帝国の背骨を支えるのはあなたです」
「承知しました。屍壁を三重に増強しておきます」
「カイ」
セレーナの目が、少年に向いた。
「あなたが勇者リオンに接近し、接続点を切断します。これが作戦の全てです」
カイは壁の作戦図を見つめた。自分の名前の横に引かれた線は、他の三人の線とは異質だった。三人の線は「守る」「引きつける」「支える」。カイの線だけが、敵の中心部まで真っ直ぐに伸びている。
「俺が行く間、誰が後ろを守る」
「カイの後ろは誰も守りません。あなたは一人で行って、一人で帰ってきてください」
冷酷な命令——ではなかった。セレーナの声には、信頼が含まれていた。「守る必要がない」のではなく、「守らなくても帰ってこれると信じている」。
「刃にはモルスが調合した魔力回路遮断剤を塗ります。毒ではなく、接続点の魔力構造を焼灼する薬品です。短刀の先端一センチに集中させます。それ以上深く刺す必要はありません」
モルスが小瓶を差し出した。琥珀色の液体。微かに焦げた金属の匂いがする。
「致死性はゼロです。ただし、接続点に正確に到達しなければ効果もゼロです。精度が全てです」
カイは小瓶を受け取り、短刀の切っ先に液体を塗った。金属が琥珀色に染まる。
「最後に——私の役割です」
セレーナが自分の線を図に描き込んだ。
「カイが接近する間、私は後方からアナライズを全力で勇者の体内に集中させます。接続点の正確な位置をリアルタイムでカイに魔術通信で伝達します。一センチの誤差を許さないために、私の目が必要です」
四人の線が、壁の図の上で交差した。
陽動。防衛。切断。誘導。
四つの専門が、一つの目標に向かって収束する。第三話で結ばれた「対等の契約」が、ここで最大の試練を迎える。




