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カイが紙片を拾ったのは、翌朝の巡回だった。
森の外縁、討伐軍の陣営から百メートルほど手前の木の根元。小石の下に折りたたまれた紙。カイの監視ルート上に、わざと残されていた。
罠の可能性を排除するのに三十秒かかった。紙の厚さ、折り方、インクの種類——全て一般的な記録用紙。爆発物や毒の痕跡はない。カイは枝の上で紙を広げ、中身を確認した。
データの羅列だった。
エネルギー残存量。影響範囲推定値。詠唱時間。タイムリミット。——暗号化されていない。計算式がそのまま書かれている。学術院で訓練を受けた人間の筆跡。
紙の隅に、小さく署名があった。「E.G.」。
カイは即座にセレーナの解析室に持ち帰った。
「グレーヴェンだ。あんたの同期が、データを流してきた」
セレーナは紙片を受け取った。目を走らせた。
数秒。
顔色が変わった。紫水晶の瞳が見開かれ、唇が薄く開いた。セレーナの感情統制が乱れる——それほどの数値が、そこに書かれていた。
「……最後の奇跡。星の残存エネルギーを全て燃やし尽くす大規模魔法。——これが発動すれば、半径二百キロ圏が消滅します。帝国だけではない。辺境全域が」
ヴェルナーが壁に拳を叩きつけた。丸太が軋んだ。
「今すぐ殺りに行く」
「待ってください」
セレーナの声が鋭かった。感情統制が即座に復帰する。
「リオンを殺せば、蓄積されたエネルギーが導管の破損で暴発します。殺した瞬間に——全員死にます」
ヴェルナーの拳が止まった。
モルスが静かに口を開いた。
「導管を壊すのではなく、接続を切る。エネルギーの流入口を塞げば、蓄積分は星に還流するだけです。安全に停止できます」
セレーナが頷いた。
「エルザのデータで、起動までのタイムリミットが判明しました。詠唱には六時間かかる。ドミニクがリオンに起動を指示するのが明朝だとすれば——明日の昼までに接続を切断しなければ、手遅れになる」
カイが壁にもたれかかったまま訊いた。
「接続点の位置は」
「オルトの聖剣が折れた時の魔力逆流を辿って特定しました。右肩甲骨の内側、深さ四センチ。胸骨に近い位置。心臓からの距離は七センチ」
「誤差の許容範囲は」
「一センチ以内。それ以上ずれれば、エネルギーが暴発するか、何も起きないかのどちらかです」
カイは数秒間、天井を見つめた。
「一センチか」
右手の指先が、無意識に動いた。短刀を握る時の形。何千回と繰り返してきた動作の残像。
「やれる」
断言だった。




