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『追放された悪役令嬢は、最凶の悪党たちと辺境で【悪の帝国】を建国する』  作者: 冷やし中華はじめました
暗黒騎士の証明

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4

剣と剣が激突した。

衝撃波が森の木々を揺らし、木の葉が渦を巻いて散った。金属と金属の衝突ではない。血の剣と光の剣。二つの異なる「燃料」が、刃を介してぶつかり合っている。

オルトの聖剣が弧を描いた。

光の軌跡が空気を焼く。一撃ごとに、足元の草がさらに色を失っていく。二合目で地面に小さな枯死の円が広がった。三合目で近くの低木の葉が一斉に萎れた。聖剣が振るわれるたびに、周囲から命が吸い上げられている。

美しかった。

光の軌跡は目を奪うほど鮮烈で、剣速は鋭く、型は完璧だった。ヴェルナーが教えた剣術の基本形が、光の力で極限まで研ぎ澄まされている。

ヴェルナーの血剣が受けた。

光を浴びた腕の皮膚が焼けた。血の膜が蒸発し、補充のために新たな血が滲む。ヴェルナーの体温がさらに下がる。唇が蒼くなっている。一合ごとに自分の命を削っている。

しかしヴェルナーの足元の草は——緑のままだった。

血剣は外から何も奪わない。燃やすのは自分だけ。地面に落ちた血の滴が、やがて土壌に染み込み、養分として還る。自己完結。循環。

五合。十合。十五合。

剣が交わされるたびに、二人の周囲の風景が変わっていった。オルトの側——枯死が広がる灰色の円。ヴェルナーの側——血に染まっているが、草は生きている。

同じ師から学んだ同じ剣筋。同じ速度。同じ精度。しかし燃料が正反対。

二人の間にある一メートルの空間が、世界の縮図だった。光が通った側は灰色に枯れ、血が落ちた側は赤く濡れながら緑を保っている。その境界線で、師弟の剣が火花を散らしている。

オルトが叫んだ。

「なぜ光を捨てたのですか!」

剣を交えながらの咆哮。息が荒い。聖剣の光が周囲から命を吸い上げるたびに、オルト自身の消耗も進んでいる。導管としての負荷。しかし彼はそれを「自分の力」だと信じている。

「光があれば——こんな苦しみを背負わなくていい! 自分の血を流す必要もない! なぜわざわざ——」

ヴェルナーは答えなかった。

代わりに、一歩踏み込んだ。オルトの聖剣の光が顔面を灼くほどの至近距離。血剣を横に薙ぎ払った。オルトが防御に聖剣を立てる。二つの刃が鍔迫り合いになった。

至近距離で、鉄灰色の瞳が金茶色の瞳を見つめた。

「お前の足元を見ろ」

低い声だった。怒りではない。命令でもない。ただの——事実の提示。

オルトの視線が、一瞬だけ下に落ちた。

足元の草が、全て枯れていた。聖剣の光が通過した範囲——半径三メートルの円内が、灰色に変色した裸地になっていた。その円の外側には、ヴェルナーの血が点々と落ちた草が、赤く濡れながらもなお緑を保っている。

師の血に染まった草は生きている。弟子の光に照らされた草は死んでいる。

オルトは見た。

見てしまった。

しかし——認められなかった。

認めてしまえば、師を売った自分が間違いだったことになる。師を追放した体制が間違いだったことになる。光が正義でなくなる。自分の五年間が——師を裏切ってまで守ろうとした「正義」が、崩壊する。

オルトは叫び、鍔迫り合いを力ずくで押し返した。聖剣に更なる光を注ぎ込む。周囲の木々から生命力が一気に吸い上げられ、三本の若木が枝を垂れ、葉を落とした。

「嘘だ——師匠は堕落したんだ! 闇に堕ちたんだ! 俺は——俺は正しいことをした!」

ヴェルナーの目が、一瞬だけ——ほんの一瞬だけ——悲しみに似た何かを映した。

しかし剣は止まらなかった。

血剣が唸った。

ヴェルナーの左腕から、追加の血が溢れた。握り込んだ柄の古傷だけでは足りない。肘の内側を手甲の縁で浅く裂き、鮮血を剣に吸わせる。今度ばかりは自ら切った。心臓が悲鳴を上げている。視界が狭まる。意識が遠のきかける。

それでも——剣を振った。

全身の血を燃料にした、一閃。

血剣の刃がオルトの聖剣に叩きつけられた。

光が弾けた。金属が悲鳴を上げた。

聖剣が——折れた。

刀身の中央から亀裂が走り、二つに割れた光の剣が地面に落ちた。折れた剣から光が消えた瞬間——

周囲の自然が、一瞬だけ呼吸を取り戻した。

枯れかけていた若木の葉が、微かに持ち直した。萎れていた草が、わずかに色を取り戻した。光が消えて、命を吸い上げるものがなくなった。奪われていたものが、ほんの少しだけ還ってきた。

オルトは地面に膝をついていた。

折れた聖剣の柄を握ったまま、目の前の師を見上げている。白銀の鎧に、師の血が飛沫として散っていた。

ヴェルナーは剣を下ろさなかった。血剣の切っ先をオルトの喉元に向けたまま、数秒間。

オルトの目に、恐怖はなかった。代わりに、何かが崩れていく音が聞こえるような——認めたくない事実が、防壁の隙間から染み込んでくるような——そんな瞳をしていた。

ヴェルナーが剣を引いた。

「立て」

一語。

「自分の足で帰れ。次は——自分の力で来い」

オルトの光ではなく。周りの命を吸い上げて輝く力ではなく。自分の、本当の力で。

それが師弟関係の清算だった。もう「教え」はしない。しかし「殺し」もしない。

ヴェルナーは背を向けた。

よろめいた。血を流しすぎている。視界が白く霞んでいる。しかし足は止めなかった。森の奥に向かって歩き続けた。一歩。また一歩。背中が森の闇に溶けていく。

オルトは膝をついたまま、その背中を見ていた。

折れた聖剣の柄を、まだ握っている。光の消えた刃の残骸。それが手の中で、嘘のように軽かった。


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