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最初に死んだのは、木だった。
直径一メートルはある古木が、根元から真横に折れた。巨大な何かが衝突した衝撃で、幹が紙のように千切れる。折れた木が地面を叩き、地鳴りのような振動が足裏を伝った。
続いて二本目。三本目。森の奥から連鎖的に木々がなぎ倒される音が、壁のように迫ってくる。
セレーナはアナライズを全力で起動していた。視界に重ねて表示される魔力の波形が、異常な乱流を描いている。森の生態系を支える魔力の循環——あの豊かで安定していた流れが、根こそぎ攪乱されていた。まるで川に巨岩が落ちたように、あらゆる魔力の流れが衝突し、渦を巻き、逆流している。
原因は分かっている。北東——王都の方角から押し寄せた魔力の衝撃波。勇者の奇跡が星のエネルギーを大規模に引き抜いた余波だ。森から数百キロ離れた場所で行使された奇跡が、これだけの混乱を引き起こしている。
しかし原因を知ったところで、目の前の危機は変わらない。
最初の魔物が姿を現した。
角猪だった。昨日ヴェルナーが仕留めた個体と同種。しかし一頭ではない。三頭、五頭——暗闇の中から次々と赤い目が光る。どの個体も目が血走り、口から泡を吹いている。魔力の攪乱で本能が暴走し、恐慌状態に陥った魔物たちだ。普段は縄張りの外に出ない種が、恐怖に駆られてあらゆる方向に突進している。
角猪だけではない。セレーナのアナライズが、接近する生体反応を次々と捕捉した。樹上には毒蜘蛛の群れ。地中からは甲殻蟲が這い出し、上空を影翼蝙蝠の大群が旋回している。種も大きさも習性も異なる魔物たちが、一つの暴流となって森を席巻していた。
森に到着してから休む間もなく組み上げたセレーナの防御結界は、最初の角猪の突進で紙のように破られた。




