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歓声が収まった後、ダリオがもう一度口を開いた。
誰にも頼まれていない。セレーナが台本を用意したわけでもない。ダリオの中から、自然に出てきた言葉だった。
「一つだけ言わせてくれ」
広場が再び静まった。
「マルコじいさんを覚えてるか」
名前が広場に響いた。六十七歳。靴職人。配給停止の六日目に森の外縁で死んだ老人。
「あの人は、俺たちの仲間だった。俺が愚かな意地を張ったせいで、壁の外で死んだ。——俺はそれを一生忘れない」
ダリオの声が掠れた。しかし目は揺れなかった。
「だから戦う。マルコじいさんの死を無駄にしない。この場所を守る。奇跡の連中に俺たちの暮らしを潰させるもんか。——あの人の分まで、俺たちは自分の足で立つ」
セレーナは広場の後方で聞いていた。
マルコ。靴職人。享年六十七。帝国で最初に死んだ人間。
セレーナの解析室の壁のリストにある名前。確率二パーセントの向こう側にいた人間。統計的に正しかった計算と、それでも消えなかった一つの名前。
ダリオがその名前を覚えていた。帝国民がその名前を覚えていた。
セレーナの紫水晶の瞳が、一瞬だけ伏せられた。
一瞬だけ。
次の瞬間にはもう、管理者の目に戻っていた。




