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数日後の夜。
リオンは一人で、王城の中庭にいた。
中庭には花壇がある。王妃が愛したという白薔薇の花壇。リオンが選定されてからは、彼の奇跡で年中花を咲かせていた。市民たちの散歩の名所であり、勇者の力の象徴だった。
その白薔薇が、枯れていた。
リオンは昨日、いつものように花壇に奇跡を行使した。光が降り注ぎ、温かさが広がり——
そして今朝、花弁が全て落ちていた。
茎は褐色に変わり、葉は縁から黒く縮れ上がっている。根元の土壌は灰色で乾燥し、指で触れると砂のように崩れた。生命の気配が完全に消えている。
リオンの奇跡が——花を殺した。
リオンは膝をつき、枯れた薔薇を見つめた。
掌を花壇に向け、もう一度奇跡を使った。光が灯る。温かさが広がる。しかし——何も起きなかった。枯れた茎は枯れたまま。灰色の土は灰色のまま。光だけが虚しく散った。
指先が震えた。
ドミニクの声が頭の中で響く。「辺境の悪魔の呪いです」。
そうだ。呪いだ。悪魔の呪いが、花壇にまで及んでいるのだ。僕の奇跡のせいではない。僕が花を殺したのではない。悪魔が——辺境の悪魔が——
しかし。
光が消えた後の花壇を見つめていると、あることに気づいた。枯死の範囲が、奇跡の光が当たった場所と、完全に一致している。光が届かなかった花壇の端——壁際の影になった部分——には、まだ緑の葉が残っていた。
奇跡の光が当たった場所だけが、枯れている。
リオンの心臓が跳ねた。
偶然だ。偶然に決まっている。呪いがたまたまその範囲に集中していただけだ。
しかし、頭の隅で何かが囁いた。とても小さな声。リオン自身の声なのか、それとも——かつて、どこかで聞いた別の誰かの声なのか。
「まさか、僕の奇跡が——」
その先を考えることが、リオンにはできなかった。
考えてしまえば——自分の存在意義の全てが崩壊する。十五歳で「勇者」に選ばれてから、リオンの人生は奇跡と共にあった。民を救い、病を癒し、魔を祓う。それが自分の全てだった。その「全て」が——世界を壊しているとしたら。
リオンには、その重みに耐える自我がなかった。
なぜなら、それを持つことを許されなかったからだ。十五歳で神殿に迎えられて以来、リオンの判断、リオンの疑問、リオンの不安は、全てドミニクとヴィクトルによって「処理」されてきた。自分で考え、自分で結論を出す——その回路が、五年かけて丁寧に塞がれている。
だからリオンは、目の前の事実を見なかったことにした。
立ち上がり、中庭を後にした。
背後で、枯れた白薔薇が月明かりの中で黒く佇んでいた。




