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カイが長距離偵察から戻った。
このところ、カイの偵察報告は回を追うごとに暗さを増していた。今回も例外ではなかった。
「王国の辺境はほぼ壊滅した」
解析室の壁の前で、カイは簡潔に述べた。セレーナ、ヴェルナー、モルスが同席している。四人が揃う会議は、帝国全体に関わる判断が必要な時だけ行われる。
「南部の穀倉地帯が干上がった。水源が枯れたんじゃない。土壌そのものが死んでいる。種を撒いても芽が出ない。表面は灰色で、有機物の匂いがしない」
モルスのローブが微かに揺れた。
「……地脈の枯渇と同じ症状ですね。土壌中の魔力循環が停止しています」
セレーナのアナライズは、ここ数週間の遠方の魔力変動を記録し続けていた。奇跡の行使頻度は、建国時と比較して二倍以上に増加している。にもかかわらず、一回あたりの効果は半分以下に低下している。星のエネルギーの枯渇が加速度的に進んでいる証拠だ。
「辺境を犠牲にして、王都への配分を維持している。それでも足りなくなれば、王都の周辺からも崩壊が始まります。私の推計では、あと三ヶ月」
ヴェルナーが腕を組んだ。
「難民はまだ来るか」
「来る。しかし数は減っている。遠方の難民はもう歩く体力がない。来るのは近隣の辺境からだけだ」
カイの報告は事実を並べるだけだった。感情はない。しかし、その事実の並びが描き出す絵は——大陸規模の飢餓と崩壊。
セレーナは壁の図表に新しい線を引いた。帝国の成長曲線と、王国の崩壊曲線。二本の線は反転した鏡像のように、一方が上がるほどもう一方が下がっている。
帝国が繁栄しているのは、帝国が優れているからだけではない。王国が崩壊しているからだ。相対的な優位。しかしその優位は、王国が完全に潰れた時点で意味を失う。王国の崩壊がこのまま進めば、大陸全体の生態系が連鎖的に破綻する。帝国の森も無事では済まない。
「——私たちの問題だけではなくなっています」
セレーナは呟いた。壁の図表を見つめる紫水晶の瞳に、帝国の管理者ではない——もっと大きなスケールで世界を見る研究者の目が、一瞬だけ覗いた。




