表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『追放された悪役令嬢は、最凶の悪党たちと辺境で【悪の帝国】を建国する』  作者: 冷やし中華はじめました
依存からの脱却と自立

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/70

マルコの死は、難民キャンプの空気を変えた。

勝利の余韻はとうに消えていた。祈りへの縋りも沈黙した。残ったのは飢えと恐怖と、圧倒的な無力感だった。

マルコの遺体の前で、ダリオは立ち尽くしていた。

同業者だった。王都では隣の店。マルコの靴は丁寧な仕事で、ダリオが若い頃に技術を盗もうとしたこともある。無口で、気難しくて、しかし仕事に誠実な老人だった。

その老人が、暗闘の中で、一人で死んだ。

腹が空いて、寒くて、おそらく食べ物を探して外に出て——誰にも気づかれないまま。

ダリオの息子トーマが、父の手を引いた。十歳の少年の目に涙はなかった。代わりに、恐怖があった。

「父ちゃん。俺たちも、こうなるの?」

その問いが、ダリオの胸を貫いた。

祈っていても死ぬだけだ。

あの銀髪の女は——セレーナは——無償で助けるとは言わなかった。「働く者には食料と安全を保障する」と言った。取引だと言った。

ダリオはあの条件を蹴った。数字で人を語るなと叫んだ。石を投げた。

その結果が、マルコの死だ。

あの女のルールに従えば、少なくとも——食える。防壁の内側にいれば——死なない。

悪魔のルールだ。冷たくて、非人間的で、数字だけが全てで、名前を覚えてもらえない——そんな場所だ。しかし。

しかし、ここで祈っていても、マルコのように死ぬだけだ。

ダリオは目を上げた。

防壁が見えた。朝日を受けて、丸太の壁が黒く聳えている。壁の上に人影はない。しかし壁は確かにそこにある。あの壁の内側には、食料があり、水があり、屍役が重労働を担い、暗黒騎士が魔物を斬り、暗殺者が敵を監視し——銀髪の女が、全てを数字で設計している。

冷たい。だが、回っている。

祈りは温かかった。だが、何も動かさなかった。

ダリオはトーマの手を離し、キャンプの中央に立った。

「みんな、聞いてくれ」

六日前とは違う声だった。六日前は怒りに燃えていた。今の声には——怒りではなく、覚悟がある。

「マルコじいさんが死んだ。みんな知ってるな。あの人は、俺と同じ靴職人だった。いい仕事をする人だった」

沈黙が応えた。

「俺たちは、あの拠点を出て六日になる。食料はない。水は川まで歩かなきゃいけない。森には魔物がいる。そして——祈っても、勇者様は来ない」

最後の一文が、空気を変えた。

「勇者様は来ない」。

全員がそれを知っていた。四日間祈り続けて、何も起きなかったのだから。しかし、声に出されたのは初めてだった。

「俺は間違ってた」

ダリオの声が震えた。しかし目は揺れなかった。

「あの女に石を投げて、条件を蹴って、祈れば何とかなると思ってた。ならなかった。マルコが死んだ。——俺のせいだ」

誰も反論しなかった。

「あの悪党どものルールは厳しい。冷たい。だが——あのルールに従えば、食える。戦い方を教えてもらえる。壁の中にいれば、マルコは死なずに済んだ」

ダリオは防壁の方を向いた。

「俺は行く。条件を呑む。働く。戦い方を教えてもらう。——ついて来たい奴は、来い」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ