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四日目の夜。
難民キャンプに、祈りの声が響いた。
「光輝の勇者様。どうか私たちをお救いください。あなたの奇跡の光で、この闇を照らしてください」
リーネが始めたことだった。膝をつき、手を組み、天を仰いで祈る。王都では毎朝、神殿で行われていた祈りの定型句。勇者の奇跡を請う言葉。
一人の祈りが、二人になり、五人になり、十人を超えた。
暗い森の中で、飢えた人々が膝をつき、目を閉じ、光を求めて祈っている。
何も起きなかった。
当然だ。勇者の奇跡は王都を中心に行使されている。辺境のさらに奥、死の森の中にまでその効果が届くことは、おそらく一度もなかった。祈りに応じて光が降る——その「当たり前」は、王都の中だけの幻想だったのだ。
ダリオは祈りの輪に加わらなかった。
焚き火の前に座り、炎を見つめていた。
勇者様は来ない。わかっている。
王都が壊れ始めた時。水が少なくなり、食料の値段が上がり、街角で喧嘩が増えた時。ダリオは勇者様に祈った。奇跡をお願いします。食べ物をください。水をください。
奇跡は来た。食料が配給され、水が浄化された。一時的に。
そしてまた悪化し、また祈り、また奇跡が来て、また悪化した。
やがて奇跡すら届かなくなった。辺境から順に見捨てられ、ダリオの町も切り捨てられ、逃げて逃げて——ここにいる。
祈りは——何も変えなかった。
ダリオは立ち上がった。祈りの輪を見た。泣きながら光を求める人々を見た。かつての自分と同じ顔をした人々を。
あの銀髪の女の声が、頭の中で響いた。
「根拠のない判断はしない」。
祈りは根拠のない行為だ。奇跡が来る保証はない。来たとしても、一時的で、根本の問題は何も解決しない。それを「根拠がない」と言い切る冷酷さが、ダリオにはわかり始めていた。
嫌いだ。あの女の言い方は嫌いだ。しかし——間違ってはいない。




