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配給が止まった日、難民キャンプには勝利の空気が漂っていた。
ダリオを中心とした二十六人は、自分たちの「抗議」が成功したと信じていた。あの冷血な管理者を退けた。計算の暴君を追い返した。民衆の声が権力を動かした——そういう物語を、彼らは自分たちに語り聞かせていた。
難民キャンプは拠点の外縁に位置していた。セレーナが宣言した通り、防衛ラインは帝国本体に限定されるよう縮小されている。完全な撤退ではない。致命的な脅威が迫れば介入する、とセレーナは言った。しかし「自分で戦う意思を持たない者を永遠に守り続けること」はしない。
防壁の内側にいた時は気づかなかったが、外側の森は暗い。
木々の隙間から射す光は少なく、地面は湿った苔と落ち葉に覆われ、空気には腐葉土と獣の匂いが混じっている。時折、遠くで何かが動く音がする。魔物だ。拠点の防壁と屍役に守られていた空間が、どれほど安全だったか。外に出て初めてわかる。
しかし一日目は、まだ余裕があった。
前日までの配給の残りがいくらかあったし、森の中には食べられる木の実もある。子供たちが水を汲みに行き、女たちが残飯を分け合い、男たちは焚き火を囲んで今後の方針を話し合った。
「あの女もすぐに折れるさ」
ダリオではない。別の男——元商人のブルーノという痩せた男——が言った。
「俺たちが労働力なんだ。俺たちがいなくなれば、あの女の拠点も回らなくなる。向こうの方が先に困る」
何人かが頷いた。理屈としては通る。労働力を失えば、食料生産は落ちる。セレーナは合理的な人間だ。合理的に考えれば、配給を再開して難民を呼び戻すのが最善のはず。
ダリオは頷かなかった。
あの女の目を思い出していた。石が頬を掠めた時の、あの目。痛みにも怒りにも動かなかった紫水晶の瞳。あの目は——折れる目ではなかった。
しかしダリオはそれを口に出さなかった。今この場の空気を壊すべきではない。まだ、待てる。




