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制度が施行されて二週間が過ぎた。
帳簿の上では、拠点は順調に機能していた。農地の開拓は予定より二日早く進み、食料の生産量は計画の一割増し。モルスの堆肥化技術で土壌改良が加速し、最初の収穫が近づいている。ヴェルナーの防衛訓練には二十八人が参加し、基礎的な槍術と連携行動を習得し始めていた。
しかし、帳簿に載らないものが膨れ上がっていた。
ダリオは農地班に配属されていた。
元は王都の靴職人。農作業の経験はなかった。しかし職人の手は器用で、鍬の扱いも覚えが早い。セレーナの評価では「適応力の高い人材」に分類されている。
ダリオは毎朝、日の出とともに農地に出た。昼まで土を耕し、午後は建設班の手伝いに回り、夕方にはヴェルナーの防衛訓練に参加した。夜は家族——妻のリーネと、息子のトーマ、娘のメイラ——と狭い居住区で眠った。
働いた。文句なく働いた。
しかし、働くたびに、腹の底で何かが煮えていた。
勇者様の時代は、こんなじゃなかった。
ダリオの脳裏に、王都での暮らしが蘇る。朝は市場で新鮮な果物を買い、昼は工房で靴を作り、夕方には子供たちと広場で遊んだ。食料は豊富で、水は清潔で、魔物の脅威は勇者の奇跡が遠ざけていた。税を払えば、あとは自分の仕事に集中できた。政治のことは王様が考え、安全のことは騎士団が守り、全てがうまく回っていた。
あの生活は——当然のものだった。なくなるとは思ってもいなかった。
それが今、泥にまみれて鍬を振るっている。靴を作るための手が、土を掘っている。妻は洗濯と炊事に追われ、子供たちは他の難民の子供と一緒に薪拾いをさせられている。
そして何より——あの化け物がいる。
屍役。死体の労働者。農地の隣で、黙々と土を運んでいる。腐臭がわずかに漂う。目が虚ろで、動きが不自然で、生きている人間の隣にいるだけで肌が粟立つ。
昨日は、もっとひどいものを見た。防衛訓練中にヴェルナーが仕留めた影狼の死骸を、モルスが農地の脇で解体し始めたのだ。内臓を取り出し、骨を選り分け、肉を乾燥させ、残った体液と臓物を——子供たちが遊んでいるすぐ横で——手際よく土壌に練り込んだ。「良い肥料になりますよ」。声は穏やかだった。子供たちの悲鳴は聞こえていないようだった。
ダリオはあの屍役から目を逸らしながら鍬を振るった。理屈はわかる。屍役が重労働を肩代わりしてくれているおかげで、自分たちが危険な作業をしなくて済んでいる。数字は正しい。
しかし、人間は数字で生きているわけではない。
不満は、ダリオだけのものではなかった。
夜、居住区の隅で、難民たちが声を潜めて語り合う。
「あの銀髪の女は、俺たちを家畜みたいに管理している」
「働いて働いて、三割持っていかれる。王国の領主と同じだ」
「勇者様に祈ろう。きっと助けに来てくれる」
「あの死体の化け物を拠点から追い出すべきだ」
ダリオは黙って聞いていた。同意したい気持ちと、それが正しいのか判断できない気持ちが、胸の中でせめぎ合っている。
セレーナの計算は正しい。毎週の全体集会で開示される生産量と消費量と備蓄の推移を見れば、拠点が順調に成長していることは誰の目にも明らかだ。
しかし——「正しい」ことと「受け入れられる」ことは、同じではない。




