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受け入れから三日目。セレーナは拠点の中央広場で、全住民を前に制度の全容を発表した。
広場と呼ぶには粗末な空間だった。窪地の中心に丸太を並べただけのもの。だがここに四十六人——四人の契約者と四十二人の難民——が集まっている。セレーナが拠点の「管理者」として住民の前に立つのは、これが初めてだった。
手元には計算の根拠がある。壁に描く図表ではなく、木の皮に墨で記した書面。モルスが森の植物から抽出した染料で、カイが偵察用に使っている薄い革紙に書いたもの。体裁は粗末でも、中身は精密だった。
「本日より、以下の制度を施行します」
セレーナの声は広場の隅まで通った。低く、平坦で、感情がない。
「第一条。労働の義務。全ての成人は、職能に応じた労働に従事します」
内容を具体的に説明していく。農地の開拓班、資源の採集班、建設班、防衛訓練班。セレーナが各人の体格、年齢、過去の経歴をカイの報告書から引き出し、最適な配置を設計した。元農民は農地へ、元職人は建設へ、特技のない者は採集から始める。
成果は数値で評価される。一日の作業量を基準値として設定し、基準を超えた者には追加の配給がある。達しなかった者には——罰ではなく再配置。適性のない仕事を強制しても生産性は上がらない。適材適所の原則。
「第二条。納税の義務。生産物の三割を拠点の運営費として徴収します」
三割。難民たちの間にざわめきが走った。王国時代の税率は名目上は二割だった。もっとも、実態は領主ごとに搾取が上乗せされ、手元に残るのは四割以下ということも珍しくなかったが、「三割」という数字は感覚的に重い。
「ただし、この三割の使途は毎週の全体集会で公開します。防衛費にいくら、食料備蓄にいくら、インフラ維持にいくら。全ての数字を開示します。隠すものは何もありません」
王国にはなかった言葉だ。王国の税がどこに使われていたか、民衆が知ることはなかった。勇者の奇跡が全てを覆い隠していた。税の使途を問う必要もなかった。困ったことがあれば奇跡が解決してくれたから。
「第三条。法の遵守。窃盗、暴力、契約不履行に対しては段階的な罰則を適用します。警告、労働の追加、そして最終的には追放です」
ここで一拍置いた。
「死刑はありません。人的資源の浪費は非合理的です」
この一文が、一部の難民の表情を変えた。王国では、重罪人は公開処刑が常だった。死刑がないということは——少なくとも、命だけは取られないということ。その一点だけで、わずかに肩の力を抜いた者がいた。
「第四条。全ての成人は防衛訓練に参加します。この森には魔物が棲息しています。自分の身は自分で守る能力が必要です」
ヴェルナーが、セレーナの隣で腕を組んだまま難民たちを見渡した。黒い鎧、大剣、左頬の刀傷。その威圧感だけで、防衛訓練への反論は喉の奥に引っ込んだ。
そして——最も波紋を広げた条項。
「第五条。拠点の重労働の一部は、屍役によって遂行されます」
モルスが前に出た。灰色のローブの下から、一体の屍役を従えて。
角猪の死骸を再利用した作業体。生前の猛々しさは消え、関節が不自然な角度で固定された奇妙な人形のように立っている。目は光を失い、口からは腐臭がわずかに漂う。しかし動く。モルスの指示に従い、丸太を一本持ち上げて見せた。人間三人がかりの重量を、無言で、無表情で、機械のように運ぶ。
難民たちの顔色が変わった。
「死体を、動かしている——」
「ば、化け物だ」
「冒涜だ! 死者を弄ぶなんて……!」
ダリオが叫んだ。
「待て、待ってくれ! あんたら、死体を——死んだものを、働かせるっていうのか?」
セレーナは頷いた。
「はい。屍役一体で、生身の人間三人分の危険な重労働を代替できます。あなたたちの家族が伐採や土木で負傷するリスクを減らす仕組みです」
「理屈はわかる! だが——」
ダリオは言葉を詰まらせた。理屈はわかる。しかし感覚が追いつかない。死者が立ち上がり、歩き、丸太を運ぶ。王国では、死者は神殿で光の祈りを捧げられ、浄化されて土に還るものだった。それを「労働力」として使うなど——
モルスが穏やかに、しかし人間の常識から完全にずれた声で補足した。
「ご安心ください。屍役に意志はありません。苦痛もありません。彼らはただの素材です。肉と骨でできた道具。生前の人格は残っていません」
安心などできるはずがなかった。モルスの言葉は論理的には正しい。しかし「死体はただの素材です」と言われて納得できる人間が、この四十二人の中にどれだけいるだろうか。
セレーナは難民たちの反応を冷静に記録していた。激しく拒絶する者。怯える者。黙って目を逸らす者。そして——ダリオのように、理屈はわかるが感情が追いつかない者。
これは予測されたリスクだった。モルスの屍役は帝国のインフラの根幹であり、撤回するつもりはない。しかし受容には時間がかかる。今はまだ、種を蒔いただけ。
「屍役に関する質問や不安がある方は、個別に対応します。強制はしません。ただし——屍役の代わりに同じ労働を人間が行う場合、負傷率は現在の三倍になります。その数字だけは覚えておいてください」




