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朝が来た。
セレーナは防壁の前に立った。背後にヴェルナー、カイ、モルス。四人が揃って難民の前に姿を見せるのは、これが初めてだった。
四十二人の難民たちは一夜を森の入口で過ごし、さらに疲弊していた。子供たちが母親にしがみつき、老人たちが地面に座り込んでいる。ダリオだけが立っていた。セレーナの姿を見た瞬間、彼の目に希望と不安が同時に灯った。
セレーナは口を開いた。
「あなたたちを受け入れます」
安堵の声が広がった。泣き崩れる者もいた。「ありがとう」「ありがとうございます」。
「ただし、条件があります」
声が止んだ。
「あなたたちを無償で救うことはしません」
沈黙が落ちた。期待が凍りついた。
「その代わり、働く者には食料と安全を保障します。これは慈悲ではありません。取引です」
セレーナは条件を一つずつ読み上げた。労働の義務。生産物の三割の徴収。法の遵守。防衛訓練への参加。
そして最後に、数字を示した。
「現在の食料備蓄は四十七日分です。あなたたち四十二人が加われば、無償の配給では五日で底をつきます。しかし、あなたたちが労働力として生産に参加すれば、三十四日後には全員が食べられるようになる。これが数字の示す事実です」
ダリオの顔が強張った。
「——それは、つまり。俺たちが働かなければ、全員が飢えるということですか」
「はい。あなたたちだけではなく、私たちもです。全員が共倒れになる。それを防ぐための条件です」
難民たちの間にざわめきが走った。
「働くのか」「勇者様の時代はこんなことなかったのに」「あの人たちは悪魔だ」。
しかし、ダリオは黙ってセレーナを見ていた。職人の目だ。材料と道具と工程を見極める目。セレーナの条件が理不尽なのか、それとも筋が通っているのか。数字の裏側にある論理を、この男は読もうとしていた。
長い沈黙の後、ダリオが口を開いた。
「……条件を呑む。働く。ただし、本当に数字通りにいくんだろうな」
「毎週、生産量と消費量と備蓄の推移を全員に開示します。隠すものは何もありません」
ダリオが頷いた。
彼に続いて、難民たちが一人ずつ条件を受け入れ始めた。全員ではない。何人かは「こんな条件は受け入れられない」と顔を背けた。しかし飢えの恐怖が、反発を上回った。
セレーナは全員の反応を記録した。即座に受け入れた者。渋々ながら従った者。反発したが最終的に屈した者。そして——まだ態度を決めかねている者。
この中の誰かが、いずれ反乱を起こすだろう。
セレーナにはそれが見えていた。カイにも見えていた。
しかし今は、それでいい。予測されたリスクは、管理可能なリスクだ。
受け入れが決まった。
四人だけだった拠点に、四十二人の人間が加わる。
歯車の数が一気に増えた。噛み合うかどうかは、これからの設計次第。
セレーナは解析室に戻り、新しい図表を壁に描き始めた。四十六人分の食料計画。労働シフト。住居の配置。防衛訓練のスケジュール。全てを数字に変換し、全てを最適化する。
彼女の背中を、朝日が照らしていた。
その光は勇者の奇跡とは何の関係もない、ただの太陽の光だった。




