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その夜、セレーナは解析室で計算に没頭した。
壁の図表が、新しい数字で埋まっていく。
現在の食料備蓄量。四人分の消費で四十七日分。そこに四十二人が加わった場合——計算するまでもなく、現在の備蓄では全員を養えない。四十六人分の消費に切り替えれば、備蓄は五日で底をつく。
しかし、四十二人が労働力として機能するなら話は変わる。
セレーナは計算を走らせた。難民のうち、即座に労働可能な成人は約三十人。うち肉体労働に耐えうる体力があるのは推定二十人。残りは回復期間が必要。子供と老人を除く。
二十人の労働力を農地開拓と資源採集に投入した場合の生産量。モルスの堆肥化技術で土壌改良を加速し、屍役が重労働を担当する前提で——備蓄の逆転点は三十四日後。そこを越えれば、全員分の食料を自給自足で賄える軌道に乗る。
問題は、その三十四日間を持たせることだ。
セレーナは数字を並べ替え、配給量を調整し、労働シフトを組み、防衛ローテーションに難民を組み込む前提でヴェルナーの負荷を再計算した。
結論が出た。
受け入れは可能。ただし、厳格な条件付きで。
条件を書き出す。
一、全ての成人に労働を義務とする。職能に応じた配置。成果は数値で評価する。
二、生産物の三割を拠点の運営費として徴収する。使途は毎週開示する。
三、法を犯した者には段階的な罰則を適用する。最終手段は追放。死刑はない。
四、全ての住民は防衛訓練に参加する。自分の身は自分で守る。
書き終えてから、セレーナは自分が書いたものを見返した。
冷酷だ、と思った。
飢えて逃げてきた人々に、初日から労働と納税を課す。「哀れんでほしい」と泣く人々に、「働け、さもなくば去れ」と突きつける。
しかし数字は嘘をつかない。
無償で養えば五日で全員が飢える。労働を課せば三十四日後に全員が食べられる。哀れみで五日後に死ぬか、厳しさで三十四日後に生きるか。選ぶべき答えは明白だ。
——マルコという名の老人が、あの数字の向こう側にいるかもしれないが。
いや。まだ名前を知らない。明日の朝になれば、あの四十二人の顔と名前をカイが全て報告してくるだろう。数字が、名前になる。
セレーナは一瞬だけ目を閉じた。
そして目を開け、条件書の最後に一行を加えた。
「五、全ての条件の根拠は開示する。隠すものは何もない」。
カイとの契約条件と同じ言葉だった。四人の間で機能した原則を、これから来る全ての人間に適用する。理由を示す。根拠を開示する。納得できなければ去ればいい。しかし、数字に基づいた判断だけは決して曲げない。




