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セレーナは四人の臨時会議を召集した。
議題は一つ。「難民の到来にどう対処するか」。
解析室に全員が集まるのは珍しいことだった。普段は各自の領域で独立に動き、必要な時にだけ情報を交換する。四人が顔を揃えるのは、全員に関わる判断が必要な時だけ。
「報告します。カイの偵察情報と私の魔力変動データを統合した結果、二十日前後で辺境の難民がこの森に到達すると予測されます。規模は初期段階で三十人から五十人。その後も継続的に流入が続く可能性が高い」
ヴェルナーが腕を組んだ。
「排除するか、受け入れるか」
軍人の問いは明快だった。脅威として排除するか、資源として受け入れるか。二択。
「受け入れるべきだと考えています」
セレーナの回答は即座だった。しかし続く言葉には、注意深く計算が編み込まれていた。
「理由は三つ。第一に、労働力。現在この拠点の生産は四人——正確にはモルスの屍役を含めて——で賄っていますが、規模拡大には人手が不足しています。第二に、防衛力。ヴェルナー一人に依存する現在の防衛体制は、あなたが倒れた瞬間に崩壊します。民兵を組織できれば、バックアップが厚くなる。第三に——」
セレーナは一瞬だけ言葉を切った。
「情報です。難民は王国の内部事情を持っている。王都で何が起きているか、勇者の奇跡がどの程度劣化しているか、民衆がどう感じているか。カイの偵察では拾いきれない質の情報が入ります」
カイが口を挟んだ。
「受け入れるのはいい。だが、リスクもある。連中の中に王国の間諜が紛れ込む可能性。集団の統制が取れない場合の内部崩壊。食料と水の消費量の急増。最悪のケースでは、こっちの拠点の位置が王国に漏れる」
「全て想定済みです。間諜のスクリーニングはカイに一任します。統制については——制度を作ります。食料と水は、難民自身の労働で生産を拡大して賄います」
カイは黙った。反対ではない。リスクを列挙し、セレーナがそれぞれに対処策を持っていることを確認した。契約通りの手順。理由が開示され、計算が提示された。カイが求める条件は満たされている。
モルスが発言した。
「インフラの観点から申し上げますと、人が増えるのは歓迎です。廃棄物が増えますから。有機廃棄物は私にとって資源です。堆肥化して土壌に還元すれば、農地の拡大が加速します。それに——」
ローブの奥で、何かが微笑んだような気配がした。
「人間はいずれ死にますので、長期的には屍役の素材も確保できます」
全員が一瞬、黙った。モルスに悪意はない。事実を述べているだけだ。しかし人間の感覚からすると、受け入れた民の死体を労働力にするという発想は、些か——
「モルス。それは事実ですが、難民の前では言わないでください」
「なぜです? 合理的な資源計画ではありませんか」
「合理的です。しかし、人間には感情があります。合理が受け入れられるには、伝え方の設計が必要です。それは私の専門領域です」
モルスは一拍置いて、頷いた。
「なるほど。では、お任せします」
セレーナは内心で溜め息をついた。モルスの「人間の感情コスト」への無理解は、帝国が拡大するにつれて繰り返し問題になるだろう。しかし今はそれを修正するよりも、セレーナが「翻訳者」として機能する方が効率的だ。
ヴェルナーが最後に確認した。
「受け入れの判断は、お前の専門領域だ。俺は口を出さない。ただし、難民の中に武装した者がいた場合、武装解除は俺の管轄だ」
「了解です。防衛に関わる判断は全てあなたに」
四人の合意が成立した。
難民を受け入れる。ただし、無条件ではない。




