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契約から三週間が過ぎた。
森の最深部にある窪地は、もはや野営地ではなかった。
北側の崖に沿って、丸太と屍役が築いた三重の防壁が走っている。壁の高さは二メートル半。上部には尖った杭が並び、中段には弓を据えるための台座まで設置されている——もっとも、弓を引ける人間は現時点でヴェルナー一人だが。
壁の内側には四棟の建屋があった。セレーナの設計で、モルスの屍役が建材を運搬し、ヴェルナーが柱と梁を組んだ。一棟は食料保存庫。モルスの腐食抑制によって、ここに収められた木の実や魔物の干し肉は数ヶ月単位で保存可能になっている。一棟はセレーナの解析室。壁に魔力で図表が描かれ、日々更新されている。一棟はヴェルナーの鍛錬場兼武器庫。最後の一棟は共有の居住区だが、全員が寝る時間帯が異なるため、同時に使われることはほとんどない。
拠点を囲む半径二キロの森には、カイの監視網が張り巡らされている。特定の木の枝に刻まれた目印、地面に仕掛けられた微細な罠、魔物の通り道に置かれた毒薬の小瓶。カイ自身にしか読めない暗号のようなそれらが、侵入者の種類と方向をリアルタイムで知らせる。
四つの専門が、四つの領域で回っていた。
ヴェルナーが魔物を狩り、モルスが死骸をインフラに変え、セレーナが全体の効率を解析して最適化し、カイが外周の脅威を監視する。歯車が噛み合っている。前回のスタンピードで壊滅した初期拠点とは比較にならない堅牢さ。
しかしセレーナの目は、拠点の中ではなく外を見ていた。
解析室の壁に描かれた図表の一つ。それは拠点の資材管理ではなく、「外界の魔力変動の推移」を追跡するものだった。
数値は悪化の一途を辿っていた。
勇者の奇跡が行使されるたびに、セレーナのアナライズは遠方の魔力攪乱を検知する。最初の三週間で、大規模な攪乱を七回記録した。平均して三日に一回。そのたびに森の外縁部の生態系が乱れ、小規模なスタンピードの兆候が現れる。カイの監視網が異変を捉え、ヴェルナーが事前に脅威を排除することで事なきを得ているが、頻度は上がっている。
奇跡の行使頻度が増している。つまり、効果が落ちているのだ。以前は一回で済んだ規模の問題に、二回、三回と奇跡を重ねなければならなくなっている。星のエネルギーの消耗が加速している証拠。
セレーナは図表に新しい線を引いた。消費速度の外挿曲線。このペースが続けば、半年以内に王国の辺境から環境崩壊が始まる。
そして環境が崩壊すれば、人が流れ出す。




