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「契約の形式は?」
ヴェルナーが訊いた。口約束では意味がないことを、元騎士団の人間は誰よりも知っている。
「魔力契約で刻みます。私の闇魔法で全員の魔力に契約条項を記録します。改竄は不可能。破棄には合理的な理由と、全員への事前通告が必要です」
カイが眉を上げた。
「つまり、あんたの闘魔法で俺たちの魔力に干渉するということか」
鋭い指摘だった。契約を刻む行為自体が、セレーナへの信頼を前提としている。
「契約の内容は刻む前に全員で確認します。条項の追加と修正は全員の合意が必要。そして——この契約は私自身にも等しく適用されます。私の魔力にも同じ刻印が入ります」
セレーナは左手を差し出した。掌を上に。素手の、泥の入った爪の手。
「信用できないなら、断ってください。口約束で始めて、追々信頼を積み上げるという選択肢もあります。ただし、効率は落ちます」
三者の間で、視線が交差した。
ヴェルナーとカイが一瞬だけ目を合わせた。言葉は交わさなかった。しかし何かが通じたのか、ヴェルナーが先に口を開いた。
「やれ。ただし、条項は一字一句確認する」
カイが頷いた。
「同じく。条項の確認後に、刻印」
モルスは既に隣に来ていた。
「面白い。魔力契約の構造は初めて受ける側から体験しますね。学術的に興味深い」
動機は相変わらず研究欲だったが、拒否ではなかった。
セレーナは闇魔法を起動した。
アナライズで自身の魔力構造を展開し、その中に契約の条項を一つずつ編み込んでいく。文字ではない。魔力の波形として、意味が構造そのものに刻まれる。改竄すれば波形が崩壊するため、偽造は原理的に不可能。
条項を全員で読み合わせた。一字一句、ヴェルナーが確認した。カイは二箇所の文言修正を求め、セレーナはそれを受け入れた。モルスは「破棄条件に「研究の自由の侵害」を明記してほしい」と追加し、全員が合意した。
最終確認の後、セレーナの闇魔法が四人の魔力に触れた。
——ヴェルナーの魔力は、岩のようだった。硬く、重く、一切の不純物がない。この男の生き方そのものが魔力に反映されている。
——カイの魔力は、限りなく薄かった。存在しないかのように薄い。魔力そのものが「気配遮断」している。
——モルスの魔力は、読めなかった。触れた瞬間に霧のように拡散し、形を取らない。刻印を編み込もうにも、対象となる構造が掴めない。
セレーナは手法を変えた。全容を読むことを諦め、霧の奥に焦点を沈めていく。拡散する魔力の深層、その最も古い地層——そこに、微かな残滓があった。規則的な波形。人間の魔力回路に固有の構造。ほとんど化石のように摩耗しているが、確かにそこにある。かつてモルスが人間だった頃の、魔力の骨格。
セレーナはその残滓を基点に、刻印を編み込んだ。人間であった痕跡に、人間の契約を接ぎ木する。すると、モルスの側から変化が起きた。拡散していた魔力が一瞬だけ凝固し、自ら刻印を受け止めるように形を作った。モルスが「受け入れた」のだ。この存在は、拒絶すれば契約を完全に弾くことができた。定着したのは、モルスの意志による——そして、まだ完全には消えていない「人間だった記憶」による。その事実が、口約束よりも遥かに重かった。
そして自分自身。セレーナの魔力に、同じ刻印が刻まれる。
四つの魔力が、同じ紋様を共有した。
契約が、成立した。




