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朝が来た。
森の最深部に届く光はわずかだったが、空気の温度が変わったことで夜が明けたと分かった。鳥の声はない。昨夜のスタンピードで、小動物の大半が逃げ去ったのだろう。
ヴェルナーは大木に背を預けたまま、目を開けた。顔色は依然として悪いが、出血は完全に止まっている。カイは焚き火の跡を土で埋めていた。痕跡を消す。暗殺者の習性だ。モルスは百メートルほど離れた場所で、夜のうちに死んだ小動物の死骸を土壌に還元していた。朝の日課らしい。
セレーナは三人に声をかけた。
「提案があります。全員に聞いてほしい」
昨日と同じ言葉だ。しかし、続く言葉が違った。
「昨日の私は間違っていました」
ヴェルナーの目が、わずかに動いた。
カイが土を払う手を止めた。
モルスが「おや」という声を漏らし、ゆっくりとこちらに戻ってきた。
「私はあなたたちに「従え」と言いました。あれは合理的ではなかった。あなたたちが従うメリットがないのに、従えと要求するのは——数字に基づかない判断です。自分の信条に反していた。撤回します」
セレーナは一息置いた。ここからが本題だ。
「代わりに、取引を持ちかけます」
セレーナは苔の上に描いた図を示した。四人の名前と、数字の羅列。
「昨夜のデータを分析しました。結論から言います。個別行動を続けた場合、次のスタンピードで死ぬ確率は八割七分。四人が連携した場合、生存確率は六割一分に上昇します」
数字を示し、その根拠を一つずつ開示した。ヴェルナーの戦闘限界、モルスとの組織再生の可能性、カイの早期警戒とアナライズの組み合わせ、そして全員が連携した場合の防衛シミュレーション。
カイが最初に反応した。
「根拠の開示は評価する。だが、六割一分はまだ低い。四割近い確率で死ぬ計算だろう」
「はい。完璧ではありません。しかし一割三分よりは遥かにましです。そして——連携の精度が上がれば、この数字はさらに改善できます」
カイは黙った。否定はしなかった。
ヴェルナーが口を開いた。
「取引というのは何だ。具体的に言え」




