効果と意味
共同炊事場の開業初日。
薪も食材も人員も設備も十分。
しかし…この人だかりは想定外だ。
「列に並んで!」
「順番守って!」
「先に券を買って!」
さっきから修道士たちの声が聞こえる。
彼らがボランティアとして現場の整備にあたる。
給料を上げようとも思ったのだが、
「食事だけで結構です。」
「民のために働くのが我らの幸せ。」
「神はきっとみています。」
権力に埋もれた汚い奴らを排除したら、なんか怖い人たちばかりが残った。
だが…その怖い人たちが、いい人なんだよなぁ。
出店は6店舗。
パンにパスタにスープに肉に…。
ちょっとした市場だな。
彼ら全員に減税。
赤字覚悟の給料。
うゔ〜。
懐が…懐がぁぁぁ!
でも。
「おいしい!」
そう笑うみんなの笑顔。
ーいい社会。
貿易で黒字を出せばいい、か。
エデアランドとの交渉も進めていきたいし、北方の探検も進めたい。
さてと…。
「何買う?ユージ。」
「私はパスタ!」
「じゃ、僕も。」
食券一枚20ペリル。
ここまで安けりゃ人気も出る、か。
食材足りるかな。
そんな不安を他所に、修道士たちの指示に従い列に並ぶ。
大盛況。
満員御礼。
本当にー
作ってよかったな。
♦︎
共同炊事場は上々。
交易利益も入ってくる。
徐々にコークスの実験も進んでいる。
カルラに森林を購入してもらったおかげもあって、薪の低価格を維持することもできた。
残る課題は、
「憲法?」
「そう!国が軌道に乗ってきた今、秩序が大事。」
僕はいつも通り、トゥラグス商会の会長、ブランダに相談に来た。
「まぁ分かりますが。」
「一応基本的なところは考えてて、帝国憲法を加筆修正する感じ。信仰と言論、人権の尊重を追加するくらい?」
「言論も認めるんですか?」
え、そこ問題あるか?
「だめかね。」
「ん〜。暴力的になるかも。」
なるほどね。
だが、そこは便利な言葉がある。
「公共の福祉に反しない限り、ね。」
ここで使うものかはわからないが、まぁなんとなく、公共の場でおかしくなければOKという制限なのでは…?
「ほぅ。それは中々面白いですね。」
「でしょ?議会なんかも考えててさ〜…」
昼過ぎに商会を訪れたのに、憲法に関する僕らの談義は夕方過ぎまで続いた。
♦︎
『全国議会、招集について』
この領土には至る所に教会がある。
そのネットワークを生かしてこの告知を出した。
都市ごと、街ごと、村ごとに代表者を募り、トゥラグスの広場に集まる。
そこで各々の要望について話し合い、憲法と法律について議論する。
そんな感じ。
これはブランダと僕で考えた。
とりあえず、トゥラグス代表はカルラとブランダに任せることにして、僕は北方調査に乗り出すことにした。
「お待ちしておりました。」
今回の北方調査には複数の元冒険者を使う。
乗馬技術、採集技術、記録の技術、全てが長けている。
意外と有用な人的資源だ。
♦︎
トゥラグスの街を出て1週間ほどが経過した。
「これは…。」
「いやいや…。」
あの時の神様の言葉を信じるなら、これが世界の真の姿。
生まれたままの世界。
だが…。
「どうしようもないな。」
「だなぁ。」
まぁ、とりあえず。
「前に話した通り、これを巻いてください。」
冒険者たちにはクローバーの種子と炭の玉を渡す。
なんとなくで選んだ土に優しそうなペアだ。
「これ、意味あるの?」
女性冒険者は種子を投げながら言う。
「…知らん。」
僕は炭の玉を投げながら言う。
まじで…多分効果は大してない。
これほど薄暗い、何もない土地に何かできるとは思えない。
「とりあえず、歩き回ろうか。」
ダンジョンは、いくつもあった。
そこを塞ぎながらやってきた。
多分。意味はある。
僕の力は、多分、この世界に意味をもらっている。
♦︎
寒い土地。痩せた土地。何もない。
そこを歩き回って種子を撒いて、炭を投げて。
こうすることに、多分意味がある。
効果はないかもわからない。
でも、動かないと何も起きない。
合わせて2日ほどだろうか。
歩き続けて、何もないことだけを理解して、僕らはトゥラグスの街へ戻って行った。




