国境線 ②
「待て。」
背を向けた僕らに、大男は声をかけた。
「技術、とはなんだ?」
「阿呆の技術ですが?気になりますか?」
「…非礼を詫びよう。」
大男は頭を下げた。
フッ。可愛いやつめ。
僕は先に戻り説明を始めた。
黒石、石炭を乾留することでコークスを作ること。
それを使えば木炭やただの薪を使うよりずっと鉄の性能が良くなること。
「信じられんが…。」
「だから、3日ほど時間をください。用意しますので。」
大男はそれでも疑念の目を向けていた。
元は世界一の超大国。
それが今や四方八方敵に囲まれた窮地。
東の商業国家との和平の噂も聞いた。
急いで敵を減らす段階。それでも
なるべく力は持っていたい。
この材料は優秀だろう。
「分かった。期間を空けよう。」
時間もない中でこの決断。
なかなか勇気のいることだろう。
帝国側もなかなか楽ではないらしい。
♦
手紙を山麓の鉱山町へ送り鉄製品を要求した。
三日間の猶予だ。
「いや、びっくりした。」
リェレンが言う。
「本当ですよ。」
ブランダも相槌を打つ。
だが、何より驚いているのは僕自身だ。
だってマジで戦争すると思ったもん。
そんなつもり一切なかったのに、なんか流れに任せてたらめちゃくちゃ危ない感じになった。
「でもまぁ、結果オーライ?」
そうだ。
とりあえず、帝国にも自慢の鉄製品を見せつければ、たぶん国境線は山脈半分このラインでどうにかできる。
「いやいや、黒石の技術に加えて鉄製品を贈るんでしょう?若干赤字では?」
…それは、そうかもしれないが。
「一応帝国との和平が実現に近づくわけで、国としての承認も近くなる。そうなったら、プラマイゼロじゃない?」
「そうですかね…。」
ブランダには何か引っかかるらしい。
「どうした?」
そんな態度されるとこっちも気になってしまう。
「ん~。鉄ばかりというのはなかなか。技術にどれだけ価値をつけらるかが大事ですね。」
なるほど。
コークスの技術が伝われば製鉄の価値は下がるわけで、その分帝国に対して売れるものはその技術になる。
…どう吹っ掛けてやろうか。
とにかくまだ主導権を譲ったわけじゃない。
鉄と、技術。
まぁ、当日の感触次第か。
♦
三日後。
鉱山町から鉄製品が届けられた。
この武器をもって、僕らは再び交渉へ向かう。
「こちらが、僕らが提供できる鉄製品です。納得してもらえたら、黒石の技術と共にどうぞ。」
大男は鉄の剣を手に取り、慎重に品質を確かめている。
「ふむ…。」
そのまま数分が経過したのち、口を開けた。
「この鉄製品。それに技術。国境線は山頂付近の希望でしたか。」
よしよし。
「そうです。」
国境線の決定はうまくいきそうだ。
「了解した。国境線はそのように決定しましょう。それでは技術と鉄製品を購入します。」
来た。
「ありがとうございます。」
さて、ここが正念場だ。
♦
「この鉄はなかなかの高品質ですが、その技術とやらが気になりますな。」
大男はまず技術の話を始めた。
馬鹿ならうっかり話してしまいそうだ。
「金はいくら払えますか?」
実態はただの木炭作成と同じだ。
大金を稼ぐことはできない。
「…言えませんな。」
そうでしょうな。
はなから期待はしていない。
「では鉄にはいくらを?」
そちらから聞き出してみよう。
ここは別に適正価格で構わない。
「…逆に、適正価格はいくらと?」
なるほど。
吹っ掛けたらその瞬間決裂と。
「それは私の分野ではないですね。」
ブランダに目線を送る。
「流通している短剣一本の相場は140ぺリルですが、この品質であれば210ぺリルは撮れるでしょうね。」
…てことは、1050円?
思ったより安いが相場の1.5倍か。
なら、十分なのか…?
「…なるほど。210…。」
男はしばらく考えた。
「わかりました。210ぺリルで買いましょう。長剣は500、ナイフなら160ぺリル程度でどうです?」
…どうです?ブランダさん。
「まぁ、よいでしょう。それより技術代ですよ。」
そうだ。
技術代。
そっちを高く売らないといけない。
…。売らなくてもいいけど。
そうじゃん。
買わんというなら売らん。
「別に、ほしくないならいいですが。」
男は即座に口を開けた。
「購入はしますが、内容も知らず買えるでしょうか。」
そうだよな…。
なら、
「話すのも恥ずかしいような技術でしてね。毎月の月額制でいかがですか?」
「月額制…?」
「月々1,000ぺリル。でどうですか?」
高い、かな。
ブランダの表情をうかがう。
意外と好感触?
「それは…いったいどのような技術で?」
それはまだ言えない。
先に確約だ。
「言えないです。買いますか?」
思ったよりも声が出た。
さて、どうか。
「…わかりました…。」
もう余裕がないのだろう。
大男は苦虫を噛み潰したような顔をしていった。
「買いましょう。月々1,000ペリルを支払いましょう。」
♦
その後、技術力を伝えて交渉は終了した。
月々1,000ぺリルというのも高すぎるくらいの技術だ。
なんせ今まである技術をそのまま流用しただけなのだから。
「成功、ってコトでいいのかな。」
ブランダは言う。
「えぇ。毎月固定で稼げるようになったのは大きいです。」
お。
「ヒラルトスとの交易で十分な利益を得られるわけで、ここでも利益が出るって言うだけで十分です。」
褒められた。
珍しい。
「やはり、あなたについていくのは面白いですね。」
ブランダは微笑んで続けた。
「今後とも、ご贔屓に。」
「ぜひ。こちらこそ。」
大きな達成感と、大きな進歩。
僕らはトゥラグスへの帰路へついた。




