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国境線 ①

  共同炊事場の開業も目前に迫った、ある日。


僕のもとに一通の手紙が届いた。


『神聖エテロネア帝国』


『国境線の策定について。』


さてはて…。


まだ内政すら整えてないのに、敵対国との交渉ですか。


…無理っしょ。


「どうする?」


カルラも心配そうだ。


「倒す?私なら精霊死なない。」


リェレンは物騒なことを言っている。


かくなる上は…。


 ♦︎


翌日、トゥラグス商会館。


「頼む!この通り!」


「え、ユージさん!?」


見よ。これがジャパニーズ土下座である。


「ブランダの協力が必要なんだよ!僕じゃ外交なんか無理なんだって!」


「えぇ、いやいやいやいや。」


ブランダさえ困惑している。


やはり帝国対策となると大きすぎる仕事か…。


それでも…!!


「頼む!ブランダしかいないんだ!」


「床、汚いですよ?」


「構いません!」


「いや構ってください。外交は協力するので頭を上げて?」


…おや?


「外交は…?」


「え?」


「協力する…?」


聞き返すと、ブランダは笑った。


「前に言ったでしょう?この国が無いと商売もクソも無いんですよ。」


…。


やばい。


最高か。


「ありがとうございます!」


最後に、僕は感謝のジャパニーズ土下座を決め込んだ。


 ♦︎


エテロネア帝国との交渉は、ギアソ山脈山頂付近の小さな村で行われることになった。


革命軍側からの参加者は僕、ブランダ、護衛役のリェレンと元々いた駐在兵に急遽募った義勇兵数名。


戦うつもりもないので、僕とブランダ、リェレンは防具はおろか剣すら持っていない。


まぁ、僕とリェレンにはこの世界を壊さないで済む魔法もある。


使いたくはないが…有事の際はしょうがない。


たぶん。


 ♦︎


移動に数日を費やし、いよいよ交渉の席へ到着した。


帝国側は物々しい装備の数十名の兵士に、鎧を纏った大男。


大して僕は丸腰の170未満チビ。


あぁ…漏れそう〜。


「それでは、交渉を始めさせて頂きたい。」


大男は想像よりやや高い声で言った。


「今回のそちら側の革命に関して、我々は教会のミスによる東部戦線の崩壊として処理しています。」


意外な発言だった。


南部だけでも十分に力があるとはいえ、北部全てを失ったのだ。


教会の失墜と合わせても赤字のはず…。


何かある。


そう思った次の瞬間だった。


「ただし、それはそちらがこちらの条件を飲んだ場合のみ。」


やはりか…。


「我々として、ギアソの資源さえ手に入れば文句はないのですよ。」


「なるほど?」


「ギアソ山脈は、全て帝国領とする。これを許諾しなければ、我々はこのまま山を下り制圧に移ります。皆さんと違い魔法もある。」


なるほどなぁ…。


詰んでねぇか、これ。


横に目をやりブランダに助けを求める。


「少々宜しいですか?」


ブランダは僕と目を合わせて微笑み、言った。


「我々は常に帝国へ強力な姿勢を見せたはずです。現に革命軍を指導した教会側のトップは引き渡したでしょう?」


そうだそうだ。


心の中だけで応援する。


しかし。


「それがなんだと?この交渉に協力しなければ、帝国の敵だ。」


…あれ?


「帝国の敵?」


「そうだ。こちらの要望に応えぬなど、帝国の意思こそ世界の意思だ。」


「エデアランドを、お忘れですか?」


大男は顔を曇らせた。


帝国とエデアランドとの間を取り持っているのは、僕ら革命軍だ。


仲裁をなしたのも、僕ら。


エデアランドも帝国も、まだ公に和解してはいない。


気づかない、とでも思われていたのだろうか。


舐めた真似を。


「エデアランドがそちらからの援軍要請に応じるとでも?」


大男は態度を崩さない。


「応じるでしょうね。」


ブランダが口を開けた。


聞いたことのない声色だった。


怒ってるな…これ。


「そもそも、帝国とエデアランドは元からギアソの資源をめぐって争っていたのですよ?我々ごとあなた方も捻り潰すでしょうね。大した力になるかは分かりませんが、ヒラルトスも派兵するには十分でしょう。」


「チッ。」


隠す気もない舌打ちを返してきた。


そもそも、ヒラルトスとの決着さえついていない。


むしろ東部戦線は崩壊したと認めたのだ。


『私たちはヒラルトスに勝てませんでした』


と言っておきながら喧嘩を売るのはあまりに脆い。


この安い条件付けが狙いな訳はない。


「わかりましたよ。」


先手必勝。


「我が国で開発中の優秀な熱資源。その技術を使う権利を売りますよ。」


「はぁ?」


「国境線は山頂の線にそってください。」


「おい。」


「必要なのは黒石。3日ほどお待ちいただければ我々の鉄製品をお見せできますが。どうしますか?」


もし帝国が鉱山町ごと潰せば技術は潰える。


折れるにしてはまだ荒いか…。


「なんの足しにもならん。阿呆はすっこめ。」


カッチーン。


「そちらに交渉の意思がないようなので、これで失礼させて頂きましょう。」


僕は席を立ち、背を向ける。


そもそも、この交渉の主導権はどちらにある?


領土を返してください、という帝国。


イエスとノーは、こちらの手元だ。


「軍を出したければ出せばいい。」


振り向きざまに大男を睨みつける。


「こちらは全力で抵抗するのみ。」

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