作戦会議
「そういえば、ユージさん。」
ヒラルトスとの再交渉へ向かう馬車の中で、商会長、ブランダは口を開いた。
「私は最初、あなたを恐ろしい人と思っていたのですよ?」
「えぇ?」
予想だにしない彼の言葉に、思わず声が漏れた。
「普通に考えて、教会勢力の排除までが早すぎます。」
あぁ〜。
「懐かしいですね、あれ。」
革命直後、もう二ヶ月ほど経つだろうか。
エテロネア帝国北部での革命は成功したが、南部は大失敗。
帝国側から教会勢力の引き渡しを求められた。
革命勢力の力を削ぎたかったのだろう。
だがぶっちゃけ、あの革命の主役は僕らと市民だ。
僕はなんの躊躇いもなく教会側の指導者たちを帝国へ引き渡した。
「懐かしいと言うか、悍ましいと言うか。」
「なんでです?」
「あなたはヒラルトスの使い方が上手い。教会に関しても同じように使えたとも思いますが…。」
えぇ?ブランダらしくないな。
「あの人たちは意地汚いですから。」
「あなたのような若者が簡単にできる事じゃないんですよ。いくつですか?」
あぁ。なるほど。
「17ですけど。まぁ、神の使者なので?」
育った環境が環境だ。
僕の方が進んだ知恵を持っていることくらい不思議じゃない。
そう言うと、ブランダは笑った。
「そうでしたな。」
このおじさんと話すのは心地がいい。
彼自身のためとはいえ、僕らへ協力もしてくれる。
雇いてぇなぁ…。
そんな金がないのは僕が1番わかっている。
金、稼がないとな。
邪な気持ちとも、向上心とも取れる気持ちを持って、ヒラルトスへ向かって行った。
♦︎
「あの…」
「はい、なんでございましょう?」
交渉、そのつもりでやってきたのだが…。
「なんでこんなたくさん…?」
クシェートに案内された部屋には大量の布袋。
対してこちらはカバン一つ。
一応手入れはしたが前回と持ってきた品は変わらない。
それに対してヒラルトスのこの大袈裟な品。
「いえいえ。その鉄製品、かなりの高品質でございますからね、私としても是非対等に取引したく。」
クシェートは低姿勢で答える。
「え、どう思う?」
僕は隣に立つブランダに問う。
「ん〜、やりすぎな感じはありますね。」
やっぱり…?
「でもまぁ、貰うよな?」
「はい、それが良いでしょう。」
なんでこんな大量なんだ…?
なんかやましいことでも……
あ。
あいつか。クレアか。
目立った動きはないけれど、やはりスパイだったか。
こちらが見抜いたことを見抜いて、なんとか気をよくしようと。
なるほどなるほど。
「中身はなんです?」
僕はクシェートに聞く。
クシェートは袋を開けて中身を見せながら答えた。
「まずはご要望通りの塩、アブラバナでございます。加えてその鉄製品に見合うものと考えましたらこちらイモ、薪も必要でしょう?魔法禁止ですからね。」
ありがたいなぁ。
薪…。
少し動く必要がありそうなものもある。
「ありがたいですが、イモは今回限りで結構ですよ。対等とはそういうもの。悪いことをした訳でもないのですから、ね?」
クシェートは引き攣った笑顔で固まっていた。
外交下手だな。ヒラルトスは。
♦︎
大量の戦利品を馬車に乗せて僕らは帰路についていた。
今回の交渉によって3ヶ月に一度の交易が確約された。
こちらからは要望に応じた鉄製品を合計80点まで、向こうからは塩一袋、アブラバナの種子一袋、薪3キロ。
塩がかなり貴重なこの時代、一袋で大体5キロくらいか?
そこそこ得な買い物に思える。
国の貿易に関しても、ブランダに任せることにした。
品物を定めるまではできるが、その後どの商品をどこに割り振るのかが、僕にはわからん。
無知ですまんね。
鉄製品もそこそこな量を生産することで技術力も向上するはずだ。
岩塩の開発も進めておくか。
北方調査に出れば、海にもいずれ着く。
塩田はそこに作ろう。
人が住めるかどうかもわからないが…。
「ブランダさん。」
僕は向かいに座るブランダに声をかけた。
「なんでしょう。」
「薪はどこが管理してるの?」
「えぇ、基本は森林ギルドですね。それがどうかしました?」
薪…。
火魔法を禁止した今、それは強い力を持ちつつある。
気づくのが遅かったが、まだ手遅れではない。
先手を打てる。
「作戦会議だよ。」




