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国家間交渉

 炊事場の建設はつつがなく進んでいる。


その間に済ませたいことはまぁ、たくさんある。


そのうちの一つ。


結構財政的にも大きな一手になる交渉へ、僕は向かっている。


1週間と少し前、僕は二方向に手紙を出した。


一つは鉱山町に何通りかの鉄製品の依頼。


もう一つはヒラルトス公国へむけて。


共同炊事場で黒字というケースがあまり想像できない。


財政赤字回避のために僕らの領土特有の高品質な鉄製品を売り出すことに決めた。


回収したい商品は特に決めていないが、種子か塩、なければ金で十分だ。


 ♦︎


馬車に揺られて約3日。


ヒラルトスと旧帝国領の境目。


革命の出発点に僕は帰ってきた。


「この度は手紙をどうもありがとうございます。ヒラルトス公国外交官のクシェート=フェルツァンと申します。」


僕を出迎えた外交官は頭を下げた。


「いえいえ、応じていただき感謝です。」


形だけの挨拶を済ませて部屋へ通される。


「交易とのことでしたが。」


「はい。手紙に書いた通りです。」


「塩とアブラバナの種子は用意しましたが、鉄は?」


「こちらです。」


鉄製品をしまった鞄をクシェートへ差し出した。


「おぉ…。」


しばらく僕の差し出した商品をいじっていた彼は驚きの声をあげた。


彼も触っただけで鉄の良し悪しがわかるらしい。


「なるほどなるほど。」


今になって思ったけれど、


これ商会長必要だったな。


適性以上に安くされてしまうかもしれない。


しかも僕はそれに気づけない。


ちょっと不味いな…。


「あ、そうだ。クシェートさん。」


「はい…?」


「別に返事をあさっているわけではありません。もう少し検討しましょう。お互いに。」


「あぁ。えぇ…。」


僕はさっさと鉄製品を片付けると馬車へ乗り込んだ。


「あぁ、ユージさん!」


クシェートが息を切らしながら走ってきた。


「もう少々お待ちいただけませんか?」


「え、はい。」


言われた通り、馬車に座り待つこと数分。


「お待たせしました。こいつを技能実習生としてそちらの国に渡らせたいのですが。」


…スパイじゃん。


身なりを見るに奴隷っぽいのかな。


「わかりました。迎え入れましょう。」


奴隷の少年、少女か?


スパイだろうとなんであろうと、とりあえず拒否はできない。


巨費ればその瞬間交渉決裂なんてことがあるかもしれない。


それだけは避けたい。


 ♦


馬車に揺られること数分。


さっきから沈黙が流れている。


転がる車輪、揺れる音。


「技能実習って聞いたけど。何の技能を実習するの?」


目の前の彼、彼女?は答えた。


「わかりません。」


声たっか。


女の子ですかい。


「名前は?」


「クレナ。」


クレナ…。


女の子か。


「機織りとか、よさげなところ見繕っておくね。」


「ありがとうございます。」


これ…完全にスパイじゃない?


とりあえず。


「持ち物、見せて。」


ポケットからは紙とペンが出てきた。


すんなり認めたな。


「手紙書くの?」


「…そう言われました。」


そう言われた、か。


まぁいいだろう。僕でも機織り機に手出しはできない。


現代化には時間がかかる。


「機織り、紹介するよ。それ以外の行動は教会の誰かと一緒にすること。」


後で早馬を出そう。


対策は必要だ。


にしても、堂々とスパイを送り込むとか、向こうの人はどうかしてる。


他に目的があるのか?


「わかりました。」


無知なふりして、こいつがキレ者だったりするのか?


だが、馬車を走らされてしまった以上、こいつを捨てる選択はナシだ。


裏切りがあれば、まぁしょうがないので抑えつける。


そんなんでいいだろう。


とにかく商会長と交渉の相談をするのが一番だ。


不安はありつつ、馬車はまたトゥラングの街へ向かっていった。


 ♦


「あぁなるほど。交渉。」


クレアには適当な仕事を紹介しておいた。


手紙も許可している。今のところ取られて困る技術は鉱山町のコークス作成くらいだ。


僕は商会長にヒラルトスとの交渉に参加してくれるよう打診している。


なにか材料が必要かと思っていたが、


「いいでしょう。お手伝いしますよ。」


商会長は二つ返事でオーケーした。


「マジですか?」


あまりにあっけないので聞き返してしまった。


「えぇ。もし国が不利に立たされれば利益もくそもないですからね。」


確かに。


そう考えると、かなり賢い判断ができたのか?


無理に交渉を成立させなかったのはよかったな。


もしこの交渉が成立したなら次は何をしよう。


まぁ、考えてもしょうがない。


「とりあえず、段取り整理とか、します?」


「そうですね。」


そこから数時間、僕は商会長に叱られながら、交渉の段取りを整えた。


あんまりへたへた言われると傷つくぞ?


ヒラルトスから再交渉の場が整った旨が伝えられたのは、一週間後のことだった。

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