武器
ギアソ山脈。
かつてエテロネア帝国の領土を南北にわけていたその山脈には鉄や金など重要な鉱山資源が眠っている。
ヒラルトス公国はそこの利益を求めていたわけであるが、
「交渉?」
馬車に乗ってギアソ山脈へ向かう最中、ヒラルトスの使者はそう尋ねた。
「そう。今回の目的は交渉。鉱山資源の中で僕らが欲しいのがあるのかないのか。そしてその獲得割合を話し合いたい。」
「でもそれ帝国も必要なんじゃ?」
それはそうなのだが…。
「今向こうはこっちに敵意剥き出しだよ?交渉に応じるとは思えない。とりあえず旧国境を越えなければいいと思う。」
元々山脈以北には帝国の保有する鉱山が3つ。
今回はその3つの調査と交渉が目的。
僕が狙うのは…
石炭だ。
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「これが、お目当てなんですか?」
ヒラルトスの使者の女性は、目を見開いて聞いた。
「はい。おそらく。」
多分、見た目は、石炭だ。
「これは…使えませんよ?」
「燃えますか?」
「燃えますけど。煙もすごいし…。」
じゃあ石炭だ。
「これは貰います。」
「本気ですか…?」
交渉の結果、僕らは採取される鉄鉱石の8割、金8割、黒石10割、銅7割、銀7割を得ることができた。
鉱山労働に関してはヒラルトスど僕らで共同管理、取り分も多いので、こちらの出費もその分多い。
それでも目的は達成した。
♦︎
次に僕が向かったのは3つの鉱山からそう遠くない鍛治師の町。
今後の僕の目標は産業の振興。
そのための第一歩が先ほどの鉱山資源の確保。
「黒石で鉄を作る?」
僕が革命軍の大将をやっていたことは隠しつつ、その辺の鍛治師に提案をした。
「そんなことは無理だな。あれは熱のムラが激しい。使うんなら木炭がせいぜいだ。」
鍛治師は不機嫌そうに答えた。
「黒石は煙もすごいらしいですしね。」
「あぁ。あれはダメだ。」
やはりか。
「僕はよく分からないのですが、木だって煙はすごいですよね?木炭ってなんなんです?」
「あぁ?そりゃ適当な木をあっためて水分とかを飛ばしてだな…。あ?」
気づいたか。
「黒石も水分含んでたりするんですかね。」
「おい、坊主。ちょっとついて来い。」
よし来た。
「わかりました。」
♦︎
石炭はそのまま燃やしてもあまり良い燃料にはならない。
凝縮することでコークスと呼ばれるものに変わる。
それが非常に優秀な燃料となる。
ありがとう、地理のセンセイ。
向こうの世界の知恵もそれなりに使えるが、あまり急進させてもダメだろう。
それに蒸気機関の仕組みなんかは僕には分からん。
僕にできるところでどうにかしていこう。
「それで…」
僕は目の前で腰を落とし、炉から目を離さない鍛治師に聞いた。
「いつまでやるんですか?」
「ひとまず、あと5時間くらいだな。」
えぇ。
あのあと、黒石を買いに行って、彼の工房に帰り、炉に火を入れ、空気を遮断して、3時間。
コークス作成には8時間もかかるのか。
「5時間っつうのも、木炭と同じ時間だからな。不十分かも分からん。そもそも、俺の仮説が間違ってたら意味がねぇ。」
「大変ですね。」
「まったくだ。」
ここまで大変だとただの鉄に大量の付加価値がついてしまうな。
市場管理も重大な任務か。
火を入れる段階でも、木をこすりながら彼は不機嫌そうに
「魔法さえあればなぁ。」
と言っていた。
「しょうがないですよ。教会も魔法は禁止って言うんだから。」
言わせたのは僕だけど…!
「妙だよなぁ。前までは神の奇跡だって言ってたのに。」
「僕らには分からないですよ。彼らの考え方は。」
「だなぁ。」
こういう経験も、いいかもしれない。
当事者であるからどうしても上からの視点からしか見れない僕にとって、こういう視点は貴重だ。
時々弾ける音を鳴らす炉を眺めて、時間を潰した。
♦︎
「これは…。」
「あぁ、大当たりだ。」
鍛治師は喜びながら製鉄作業に入っていった。
結局、追加で夜通し熱を入れた。大体14時間くらいだろうか。
これはすごい発見になった。
僕はこの町の教会に足を踏み入れた。
神絵に手を合わせたとしても、もう神様の声は聞こえない。
いたのか、いないのか。もう分からない。
「何か御用ですか?」
修道士が声をかけてきた。
彼は僕を見ると、正体を察したのかすぐに裏へ通してくれた。
「それで?何か御用ですか。」
「今回すごい発明があったんです。」
僕は今回の発見の詳細を話した。
「それで?」
「この発見を秘匿して欲しいのです。教会の名で、彼に秘匿の命令を。」
この発見は大きい。
だが、まだ横行させてはいけない技術だ。
「代わりに、彼と共同で効率化と大量生産を図ってください。準備が出来次第、中央に連絡を。」
木炭を使用していた以前と比べて、品質は上がる。
これは一つの武器だ。
大切に育てることが肝要だ。




