渦巻く陰謀
「…そんなことが、あるの…?」
リェレンは絶望したような、生気の抜け落ちた声を出した。
「ある。レンだって知ってたんじゃないの?」
彼女は、エテルネスと話している。
エテルネスが言うには、彼女は神様の娘。
この結末を予想していたっておかしくない。
「私は…。」
世界を救う。
それがリェレンの夢であり、生きがいだった。
「待ってよ、ユージ。」
カルラが声をあげた。
「私たちは、何のためにここまで来たの…?」
自分が世界を壊していた、そんな事実よりも僕らの行動の意味を作りたいらしい。
「さぁね。滅亡前最後の観光じゃない?」
カルラは言葉を詰まらせた。
そんな事実は、軽々受け入れられるものじゃない。
だが、実際僕らにできることは、もう何もない。
重たい沈黙が流れた。
その沈黙を破るように、教会の扉が開いた。
「御三方。お待たせして大変申し訳ありません。」
中から現れた司祭は、張り付けた笑いでこちらをみた。
「大変恐縮ではありますが、御三方を拘束、連行させていただきたく存じます。」
司祭は低姿勢のままだった。
「拒否権は?」
「ありません。」
低姿勢ながらも、言葉の裏には確固たる意志が感じられた。
カルラとリェレンは、もう動く気力もなさそうだった。
「…わかりました。」
北上の任務。
その意味がようやく分かった気がする。
別に僕らを魔王のもとへ運びたかったわけじゃない。
ただ、山脈を越えた先の、何か別の目的のためだけに僕らは動かされていたらしい。
◆
「御三方には、これより東方のヒラルトス大公国へ、移っていただきます。」
僕らを縛って馬車に乗せた司祭は言った。
「それはなぜ?」
至極まっとうな問いだろう。
「少し、味の悪い話ですよ。」
そうため息をついて、彼は世界の陰謀を、語り始めた。
◆
この世界には3つの大国がある。
エデアランド帝国、エテロネア帝国、ヒラルトス大公国。
西にいけば行くほど、鉱山資源は潤沢になる。
エテロネア帝国はギアソ山脈で取れる鉄をメインに交易をしていたが、貴重な金やプラチナはすべてエデアランド帝国のもの。
その資源を求め、帝国は騎士を西方へ派遣し戦争を開始した。
しかし、国力の差は歴然。
戦争開始から半年が経った今、撤退以外の選択肢はもうのこっていない。
時期を同じくして、ヒラルトス大公国の方がエテルネス教会と接触した。
「彼らの望みも、また我々の鉱山資源。」
司祭の男は続けた。
ヒラルトス大公国は、ある意味賢い戦法をとってきた。
ギアソ山脈以北のエテロネア帝国領の奪取に成功した場合、教会にその地域の自治権を与える。
かわりに、ヒラルトスにはギアソ山脈の鉱山資源すべての管理権を受け渡すこと。
「我々がかねてからこの国の政権を狙っていたのが、ヒラルトスにはバレていたようなのです。」
こういう話を聞く限り、この男は教会でもそれなりの立場だったに違いない。
協会の狙いは、まずはヒラルトスに協力しエテロネアを打ち倒す。
その後、強大化した力を用いてエデアランド帝国を打ち倒す。
「ヒラルトスに支配を受けて、どうやって力が強大化するんです?」
国力ではまだエデアランドに劣るはずだ。
「プロパガンダって、知ってますか?」
司祭の男はニヤリと笑った。
「あなたがたが、この世界を正す英雄なんです!悪しきエテロネア帝国を打倒し、正しき世へ導く、英雄なんです。」
教会のシナリオはこうだ。
僕たちをヒラルトスへ送る。
エデアランドから帝国兵が撤退したタイミングで僕らを英雄としたヒラルトスが帝国内へ侵入。
僕らが神の血を継ぐ者としてエテロネア帝国国王の血筋がエテロネアに起源を持たないことを訴える。
教会騎士団が寝返る。
エテロネア帝国国民はエテルネス信仰が篤いため、すぐに教会側につく。
「完璧でしょう?」
男は得意げに言った。
正直言って、驚いた。
ここまで世界の行く末に興味がないとは。
「魔王は、どうなるんですか?」
そう聞くと、男は急につまらなそうな顔をした。
「考えてもわからないのに、なぜ考えるんですか?」
ーあぁ、なんだ…。
結局、世界を動かすのはこういうネジの外れな人間たちなのか…。
ドス黒い欲望をつつみ隠すことなく白状し、それを悪とも思わない。
権力や、金。
そんなことどうでもいい。
自分が気持ちよくなれれば、それでいい。
世界なんて、どうでもいい…。
右に目をやる。
カルラも、リェレンも、もう絶望以外の色を、その瞳にうつしていなかった。




