答え合わせ
積み上げてきたものが一気に崩れる。
努力が全て無に帰すとわかる。
そういうとき、確かに絶望は音を立てている。
その音は、僕にしか聞こえなかった。
◆
ダンジョンから出た先、知らない土地。
とにかく聞き込みをしないといけない。
一面に広がる畑。
ぽつりぽつり小屋は見える。
「ねぇ、ユージ。さっきのって…。」
右後ろからリェレンが声を上げる。
「…あとで話す。」
振り返りながらそう答える。
しかし…。
もし、僕がすべてを話せば、彼女はきっと…。
とにかくうまい言葉を探しておかないといけない。
視界の端に何か言いたげなカルラが見えた。
恐怖とも怒りともつかないその表情に、どんな言葉をかければいいか、僕にはわからなかった。
ただ、さっき僕がやったことが、明らかに異質なことだったということだけはわかった。
2人の反応も、僕が感じた世界も、全部がそう教えていた。
ーもう、どうでもいい。
魔王も、勇者も、世界も、全て結末は決まってるんだ。
「あ、人。」
リェレンが小屋を指さした。
彼女にどう伝えたらいいだろう。
君が救おうとしている世界がーー
すぐに滅びることを。
◆
「ダンジョン?!そりゃ大変だな。教会さんに伝えないと。」
声をかけた老人は、僕らの事情を聞いて驚いて言った。
ー教会…。
ここでも絡んでくるのか。
「それで、ここはどこなんでしょう?」
ひとまずはカルラとリェレンの不安を取らないといけない。
ここがどこか分かれば、ある程度は落ち着けるはずだ。
「ここはエテロネア帝国ノーゼル公領。冒険者のギルドがある都市までは大体2時間くらいだな。」
ノーゼル公領…。
ということは、帝国内でも北方まで来たわけだ。
山脈も越えられたわけだが…。
「教会はどこに?報告へ行かないと。」
まずはそこの動きを理解しないといけない。
こんな農村の教会にまで僕の情報は広まっているのかどうか。
もし広まっていたのなら、その時はもう、僕が魔王になったって構わない。
◆
「ダンジョンから出たら、この村に?」
教会、と言うので身構えていたが、向かった先はオンボロの木造建築。
教会の目印である六芒星の旗すらない。
その建物の外で僕らの相手をしていた修道女は驚いて声を上げ、中にいる司祭を呼びに行った。
ーさてと…。
僕も彼女の後を追うようにして建物にはいる。
建物は古いが、中身は立派だ。
宗教画には山脈以南と変わらぬエテルネスの姿が描かれていた。
僕はその絵の前にひざまずく。
「ユージ…?」
「何、してるの?」
後から問う2人は無視する。
ー神様。
こうやって話すのは、多分、最後になる。
僕にとってこれからの会話は、ただの答え合わせに過ぎない。
『イサゴ=ユージ。』
聞き慣れない、けれどどこか懐かしい声で、神様は呼びかけに応えた。
ー精霊の使役は、誰にでもできる。違いない?
『うん。』
ー治癒魔法の代償は、自分の寿命。属性魔法の代償は、世界を構成する精霊。
『その通り。』
ーなら、魔王はーー。
『魔王はね、精霊が消えた世界の姿だよ。』
神様が答えをくれるとは思わなかった。
魔法ーー
それは、教会の権力の象徴。
しかし、精霊が消えた世界では、魔法を使うことはできない。
だから教会は何かと理由をつけて魔王問題を解決しようと必死だった。
だが、教会には足りていなかった。
精霊が消える理由、それだけが。
教会から僕らに与えられた任務は、北上。
世界の北端、魔王の領土まで僕のような治癒術師ーー
精霊を必要としない人間が踏み込めば、魔王問題の解決の糸口がつかめる、とでも思ったのかもしれない。
現実はそう甘くない。
教会は今も、魔法を、世界の寿命を武器に力を伸ばそうとしている。
教会でなくても、人は当たり前のように魔法を使う。
顔を洗うにも、湯を沸かすにも、魔法がないと生きていけない。
ーもう、ダメだ。
目を開けて、立ち上がる。
「大丈夫…?」
心配の声を上げるリェレンの目を、まっすぐと見る。
君はこんな世界を、救おうとしているの?
魔王問題は解決しない。
それに苦しまされる人は、そりゃたくさんいるけれど、僕らだってその中の1人なんだ。
「2人とも、大事な話がある。」
僕は頭が良くない。
うまい言葉を見つけられない。
だからせめて、真っ直ぐありたいと思う。
ー全て話そう。
この世界の仕組みも、魔法と魔王の正体も、僕らの目的の果ても。
そしてーー
もうやめよう。
こんな事を続ける理由、意思がもうどこにもない。
僕の心の中はもう、絶望に染め上げられていた。
積み上げたすべてが崩れる音が、耳の奥に鳴り響いて鳴りやまなかった。




