変わる
「それじゃあ、行くよ。」
今度の虚無は、林のなかに存在していた。
『新たなダンジョンの調査 報酬600+300ペリル』
昨日の夜、夕飯を済ませたあとギルドでこの依頼を受諾した。
真っ暗な世界への一歩も、3人でいれば、もう怖くない。
◆
景色が晴れたとき、僕らは空にいた。
いや、空へ落ちていた。
ダンジョンの入り口はどんどん遠ざかる。
なるほど。
これまた面倒な…。
「ユージ!これどうする!」
カルラが叫ぶ。
シンプルに考えてしまえば、遠ざかる地面に何か引っ掛けて地面へ降りていく。
それが一番簡単だが、こうしている間にも、僕らは空へ落ちていっている。
「カルラ。ロープを木とかに引っ掛けられる?」
「どうだろ。そんなに長いロープあるかな?」
そう言いつつもカルラはロープを木に向かって投げる。
しかし、空の重力はかなり強いらしい。
ロープはすぐに上へ引っ張られてしまった。
ーこれは中々…。
何かないのか?
例えば、空が地面の可能性。
「カルラ、水玉を空に打って。」
「…分かった!」
彼女は詠唱して、水玉を空へ放った。
これで水玉がはじければ…。
しかし、いつまで経っても水玉ははじけなかった。
つまり、底なしの空へ落ちているということ。
これは、本当に。
「まずいんじゃない?」
カルラは苦笑いで問いかける。
「かなり、まずい。」
全く、世界は厳しいものである。
ダンジョンの出口はどんどんと遠ざかる。
まさか魔物じゃなくてダンジョンに食われるとは。
リェレンはさっきから黙っている。
彼女の顔には、後悔が刻まれていた。
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「ダンジョン!これにしよう!」
ギルドに着いて、一番に声を上げたのはリェレンだった。
まぁ一番お金が稼げるのはその依頼なわけで、反対する理由もないのでオーケーした。
「でもそれ危ないんじゃ。」
カルラは少し不安そうだった。
「大丈夫。魔物は私が殺す。ユージも今回は役に立てないよ。」
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リェレンは多分、その発言を悔いている。
諦めている。
カルラを見る。
彼女も同じ顔をしていた。
自分が最後まで反対すれば、そんなことを考えているのかもしれない。
いつだっただろうか。
2人が迷った時に、道を示そうと決意したのは。
役に立つ、立たないは関係ない。
今はまだ、諦めるときじゃない。
どこかにある。
必ずある。
ダンジョンは世界の穴だ。
結末は世界に通じるはず。
ー精霊を世界の構成要素とします。
そう言ったのは、誰だった?
遠ざかっていくあの穴が、世界から精霊が消えた場所。
ー奇跡は身近に溢れている。
神様は言った。
奇跡が、世界で、世界が、精霊。
あの穴の周りにだって、精霊はいるんじゃないか?
解釈しろ。
世界の仕組みを。
全てそうだ。
火の魔法も、治癒魔法も、イメージからやって来た。
あの穴を、こっちまで持ってくる。
そのためにはーー。
僕は目を閉じる。
イメージする。
精霊の穴は精霊で補完する。
移し替え、移し替え、穴を運ぶ。
その穴は、もう、僕らの隣にある。
「ユージ…?」
カルラの恐怖も混じった声に目を開ける。
ーわかった。
魔法なんてものは、所詮想像。
リェレンの手を引く。
「出るよ。」
僕らはその穴から、世界へ戻る。
もう、できないことは何もないように思えた。
◆
そんな幻想は、すぐに打ち砕かれる。
「どこ…ここ。」
リェレンが声を上げる。
穴から出た先は、見知らぬ野原だった。
寒さも消えて、一面に畑が広がっている。
ーマジか。
ひとまず、確かめないといけないことがたくさんある。
「2人とも行くよ。」
「え?」
「行くって、どこに?」
2人はまだ混乱している。
「いや、情報は集めないとでしょ。」
2人は目を見開いたまま、こちらを見ていた。
「ユージは…。」
カルラは一度そこで躊躇った。
しかし、続けた。
「ユージは、何なの?」
何なの…。
「さぁ。」
自分でも驚くほど、感情が死んでいた。
必要とあらば、2人を置いていけるほどに。
「来ないなら先行くよ。」
この冒険に正解があるのか、僕にはわからない。
けれど、もう進む他ない。
2人がついてくる足音が聞こえる。
この2人にも、話す必要はない。
あの穴を運ぶとき、僕には予感があった。
ダンジョンを出た先が、ギアソ山脈以北であること。
そうでなくても、元々いた場所とは違うこと。
それが肌で、分かったこと。
世界の秘密は、もう少しでわかりそうな気がした。




