通り越して
「完・全・復・活!」
翌朝、リェレンの部屋へ向かうと、彼女は自分から飛び出してきた。
「大丈夫?ほんとに?」
「大丈夫。私は勇者だから。」
平常運転みたいで何よりだ。
「流石。でも今日は大事を取ってお休みしてもらいま〜す。」
「えぇ〜。」
彼女は不満げに頬を膨らます。
昨晩のキスのことは、どうやら覚えていないようだ。
僕はあれのせいで寝れなかったというのに。
「おはよう。」
隣室からカルラも出てきた。
「おはよう!」
リェレンはカルラにも完全復活を宣言していた。
まぁ、もう無視もできなくなってきたわけだがーー
あの2人からの印象が気になって仕方がない!
なんなんだ一体カルラの余所余所しさとか昨日のリェレンとか!
単純に好意と受け取れるほど、僕は自分に自信がない。
カルラの余所余所しさは単純に気まずいとかでも不思議じゃないし、リェレンのあれだって僕に風邪を移してやりたいと本気で思っていたのかもしれない…。
でも!
好意だったらい〜な〜とか思っている僕もいる…。
「はぁ…。」
思わずため息が漏れる。
ー人間関係ってこんな難しかったっけ?
◆
「へぇ、ユージさんは春真っ只中なんですねぇ。」
木こりの依頼主は淑女さまで、
「悩んでいるのが丸わかりですよ。私にお話してみなさい。」
作業が終わったあと、そんなことを言われた。
普通に考えて、こんな話は初対面の人にする話じゃない。
けれども、真剣な悩みなのだ。
つつみ隠すことなく、すべてを打ち明けた。
春真っ只中、ねぇ。
「好かれている確証もないのに、ですか?」
デオンにも言えることだが、こういう尊敬できる人には勝手に敬語が出てくる。
「それを悩むのが春なのよ。」
紅茶を一口飲みながら、女性は答える。
悩むのが、春、ねぇ。
「お二人からの評価よりも、私はあなたからの評価が気になりますけれど。」
紅茶を置いて、女性は言った。
僕から、2人への評価…。
「2人は、いないと寂しいくらい、大切です。」
出されたものの、一度も手を付けていなかった紅茶に手を伸ばす。
「それだけですか?」
やはり、年の功。
見透かされている。
「どちらが、とかじゃないんです。2人のことが大好きなんです。」
思っていたよりも、紅茶は苦かった。
「恋愛対象としては、見れていないと。」
窓の外の景色を見ながら、女性は聞いた。
「恋とか、そんなもんじゃないです。」
多分、僕ら3人のパーティーを誰より愛しているのは、僕だ。
もし、これが恋なら、僕はなんて身勝手なんだ。
2人が大好きだなんて言うのは、もう恋じゃない。
それを通り越して、たぶん愛だ。
上品な笑い声を上げて、女性は言った。
「やはり、ユージさんは春ですね。」
僕はただ笑っていた。
多分、僕はもう春さえ通り越している。
◆
依頼料を受け取って、宿に戻る。
「ユージ!」「お疲れ。」
2人の声を聞くだけで、2人の姿を見るだけで、胸のなかに泣きそうなほど暖かい気持ちが溢れてくる。
ーもう、どうしようもない。
これはもう、恋じゃない。
きっとそれを飛び越えて、僕は2人を、愛している。
「ユージ!依頼、依頼!」
「レン、ユージは疲れてるんだから。」
「あぁ。ごめん。じゃぁ、ご飯…?」
「うん、行こう。」
3人で並んで歩くこの時間が、どうか、永遠に続くように願った。
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目が覚めた時、最初の実感は体調の回復だった。
自分が何をしたのか考えて悶えたのは、その後。
ホントに何やっちゃってんの、私は…。
彼の柔らかい唇の感触だけが甘く残っていたのに、そこに後悔が加わって、甘いを通り越してもう苦い。
ー顔洗おう。
カルラの部屋へ行こうと扉を開けると、偶然彼と鉢合わせてしまった。
…………。
あぁぁぁぁぁ!!
ヤバいヤバいヤバいヤバい!!
「完・全・復・活!」
焦って変なことを言ってしまった…。
終わった。キスのあとにこんな事を言う女…。
「大丈夫?ほんとに?」
それでも、彼はブレなかった。
ーやっぱり。
私にとっての勇者は、君だよ。ユージ。
「大丈夫。私は勇者だから。」
そんな君が、私を勇者と認めてくれた。
だからもう、大丈夫。
君に私を好きなってもらうのは、全部終わったあとでいい。
今はまだ、この気持ちを苦いままにしておこう。
いつかきっと、それがかけがえのないものになるから。
私は勇者として、君を支えるよ。




