不意に、寂しい
僕らがイノシシ狩りをしている最中、リェレンは雪かきの仕事を受けていた。
彼女にしては地味な仕事だと思ったが、
「私得意なんだよ。」
と鼻を鳴らしていたので任せることにしたが、
「…なにこれ?」
ギルドに戻るとてんやわんやの大騒ぎ。
雪かきの女神、だなんてワードが聞こえてきた。
ーまさかね…。
「あの量の雪を一瞬でどっかに消しちまうなんてな!」
「リェレン=クリスティは雪かきの女神だな!」
その大騒ぎの真ん中にいる、雪かきの女神様に声をかける。
「レン。」
僕の声を聞くとリェレンはすぐにこちらを見つけ駆け寄ってきた。
「ね!」
騒いでいる集団を指さして、彼女は自慢げに言った。
「何をどうしたらこうなるの?」
雪かきの女神は自慢げな態度を崩さないまま語り始めた。
「いつも通り魔法でブン!」
ーブン!じゃないわ。
「どうしたの?テンションおかしくない?」
「そんな事ないって!大丈夫大丈夫!」
ヘラヘラ笑う彼女の額には、汗が光っていた。
「ちょっと見してみ。」
額に手を当てる。
寒いこの地域で、彼女の額だけは灼熱だった。
「熱じゃん。」
真っ赤な顔をした自称勇者改め雪かきの女神は、はしゃぎすぎた挙句風邪を引いてしまったらしい。
◆
「良いって〜。カルラも依頼行きなよ〜。」
翌朝になっても、リェレンの体調は戻らなかった。
この時代は風邪でも人が死にそうで怖い。
カルラにはリェレンの面倒をみてもらうことにした。
「いい?レンは外出禁止。カルラもマスクは絶対に外さないでよ。換気も定期的にして、手洗いうがい忘れないで、キツくても絶対に栄養とってそれから…」
「もう良いから行ってきなよ。」
カルラは落ち着いた口調で言い放った。
体調を崩した時、親がキツく言いつけてきた理由が分かった。
ただ、心配なんだ。
「行ってきます。」
宿の扉を放す。
「ちゃんと病院も行きなよ!なんかあったらすぐに…」
「来いよ。」
最後のひと言は、たぶん二人には届かなかった。
治癒魔法を使って治そうとも言ったのだが、2人はすぐにそれを拒否した。
カルラがダメというのはわからなくもないが、なぜ体調の悪いリェレンまで拒否したんだ…。
彼女なりのせめてもの強がりだったら、こちらとしても気が楽だ。
だがまぁ…。
「稼ぎますか。」
そう自分に言い聞かせ、気合を入れる。
僕が役に立てるとすれば、きっと今だ。
◆
昨日のうちに見繕っておいた依頼は2つ。
1つは商会から馬橇の発着所まで荷物を運ぶ手伝い。
もう1つはカブの収穫。
ノラム商会から馬橇の発着所までは、手ぶらで歩いて1時間弱。
山を登るわけだから、荷物があると余計キツイ。
しかしお金を稼げて体力もついて、馬橇の料金もわかる。
ちなみに依頼料は200ペリル。
「ユージ兄!」
ノラム商会へ入ると、マロナが駆け寄ってきた。
まだメディオへは帰っていないらしい。
駆け寄ってきた少女を抱き上げる。
キャッキャッと喜ぶ姿が何とも愛らしい。
「ユージ、今日もよろしくな!」
デオンも奥の方から出てきた。
「今日もってことは、もしかして…。」
「俺等と俺等の品物をウバラフまで運ぶって訳だな!」
なら、なんか楽できそうな気がする。
◆
デオンたちの慈悲を期待していたが、むしろ彼らからの扱いは酷くなっていた。
「マロナを背負ってあの道を歩いたんだからこんぐらい行けるだろ?」
雪山用の靴をプレゼントしてもらえたのは最高だが、荷物の量が尋常じゃない。
「いや…無理だから…。」
一歩が重い…。
ただでさえ雪の上り坂なんて大変なのに…。
「ユージ兄!が〜んばれ!」
もこもこの服に身を包んだマロナの応援を受け、何とか踏ん張って目的地まで到着した。
「いや〜助かったよ!報酬はそら、上乗せだ。」
そう言ってデオンは僕に御駄賃を渡す。
ーこの人これ多いな。
「じゃあなユージ。またどこかで!」
デオンたちは続々と橇に乗り込んだ。
そりゃそうだよな。
それが目的だったんだから。
ふと、寂しさを覚えた。
彼らと共に過ごしたのはたったの3日だ。
それとこの2時間弱。
それだけで、こんな気持ちになるのか?
「ユージ兄、またね。」
マロナも手を振って橇に乗り込んだ。
気づけば僕は橇に駆け寄っていた。
「デオンさん。」
「どうした?寂しいか。」
僕の声にデオンさんは橇から顔を出す。
「また!」
右手を差し出す。
「おう!」
僕の手を握り返した彼の手は、とても大きく、力強かった。
ー彼みたいな人に、なれるかな…。
離れていく橇に手を振って、僕は雪山を降り始めた。
寒い季節の寒い場所。
それなのに、心はどこか温かかった。
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ユージが部屋を出たあと、しばらく沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのは、カルラだった。
「私、ユージが好きなんだよね。」
一気に熱が引いていく感じがした。
「え…。」
好き…というのは、え…?
元から回っていない頭が今はもっと回らないのに…。
「彼のお嫁さんになれればなって。」
カルラは笑った。
彼女の笑顔は、昔から全く変わらない。
邪気のない、太陽みたいな笑顔。
ー勇者みたいだね!
彼女の言葉を思い出す。
「私は…。」
今までずっと、私は勇者になりたかった。
それは、多分。
「カルラがいないと…。」
何もできない。
なぜか涙が溢れてきた。
こぼさないように必死に上を向いた。
そんな私の顔を見て、カルラはすぐに私を抱きしめた。
「大丈夫。レン。ユージはたぶん、私たち2人と一緒にいてくれるよ。」
熱でぼやけた視界。
涙が頬を伝う感触だけが、リアルに残った。
私を抱いたカルラの指と、カルラの声が震えていることは、気づかないふりをした。




