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優しさと温もりは、チクリと痛む

 少女の名前はマロナというらしい。


先頭の男、デオンの娘だ。


「マロナのけがは死ぬようなものじゃないんだよな?」


父親らしく、デオンはマロナの心配ばかりしている。


「大丈夫です。頭をぶつけたとかもなさそうですし。単に足首をけがしただけでしょう。」


けが、とはいうが軽ければ何の問題もない。だが靭帯や骨にまで影響が出ている可能性もある。


治癒魔法さえ使えればどうにでもできるが、カルラとリェレン以外に知られるわけにはいかない。


せっかく教会から距離を開けられたんだ。


できることならもう二度とかかわりたくはない。


とりあえず圧迫処置だけはしておいたがそれで十分かどうか…。


次の休憩になったらもう一回けがの様子を確認しよう。


 ◆


「うっわ。すごい腫れてる。」


お手製の包帯をほどくとマロナの足首はふくらはぎと同じくらいに腫れあがっていた。


ーぜんっぜんわからん。


骨折はしたことないからどんだけ腫れるかわからん。


靭帯やった時はこんなもんだったっか?


とりあえず冷やすか?


「カルラ。水かけたげて。」


カルラが使う水魔法は常温じゃない。


外の気温が低ければ冷たく、暑ければぬるくなる。


メディオから少し標高は下がったとはいえ、気温はまだまだ低い。


冷却には十分だろう。


「冷たい。」


そう言いながらもマロナは動かずじっとしている。


ー偉い子だ。


僕が10歳の頃なんてもう…思い出したくもない問題児だった、気がする。


だが、これ以上マロナに僕が出来ることはないしこの行為が正解かどうかも分からない。


「ありがとう。」


カルラに礼を言う。


水気を拭き取ってお手製の包帯をもう一度巻き付ける。


ーもうこれ以上は…。


マロナを背負って、僕はまた歩いた。


 ◆


その日は結局、7時間ほど歩いたところで野営を開始した。


月明かりも星明かりもあまり入ってこない。


焚き火を囲んで10人ほどの集団が地べたに腰を下ろす。


全員で話しながら飯を食らう、なんてことはなく、3人くらいのグループがいくつも焚き火を囲むかたちだ。


「なぁユージ。まだ腫れがひかないみたいなんだが…。」


デオンは娘の心配が絶えない。


「一晩待ってみましょう。僕も医者じゃないんで詳しいことは分からないです。」


マロナは僕の膝のうえで寝ている。


ずいぶん懐いてもらえたようだ。


デオンはマロナの頭を撫でる。


その横顔がやけに切ない。


「…。明日の朝、治ってても、不思議はないかも。」


このやり方が正しいのかは分からない。


隣で話しているリェレンとカルラにも、ばれればたぶん怒られる。


ーそれでも。


「本当か…!!」


父親の喜びも、膝のうえで眠る少女の腫れた足の痛みも、やけにリアルに感じられた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私とカルラには、口には出さなかったけれど確信があった。


ユージは多分、マロナちゃんの傷を治す。


治癒魔法を使うのは、彼にとって大変なこと。


一回使うだけで立ちくらみを起こしたり、ひどいときは気を失ったりするのに。


彼がマロナちゃんを見るときの目は、デオンがマロナちゃんをみるときの目と一緒で、慈愛に満ちている。


人の優しさに敏感で、自分の優しさに無頓着。


彼を初めて見た時、その顔は恐怖に満ちていた。


ダンジョンに、この世界に恐怖している、そんな顔。


彼は多分、私たちより多くの"世界"を見ている。


治癒魔法は多分、そういう人にしか使えないんだと思う。


そんな彼だったからーー


「治ったのか?!」


翌朝のデオンの大騒ぎにも、私たちは特に驚かなかった。


「良かったですね。」


そんなことを言って笑っている。


君のその優しさを、どんなふうに言葉にすればいいか、私にはわからない。


ただ、胸の奥がチクリと痛む。


ー君が、大切なんだよ。


言葉にならない、この想いを君に届けたい。


だから、私はーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「治ったのか?!」


デオンは大きな声を上げた。


僕が治したのだから、まぁ分かってはいた。


にしても…。


治癒魔法ホントにコスパ悪いな。


マロナの足首の怪我を治すだけで酸欠みたいな症状が出た。


寝たからかなりマシになったが、まだちょっと頭が痛い。


「良かったっすね。」


ーバカ親。


僕の両親もこんな感じだった。


資格を取ったらベタ褒め、大会の結果が駄目でもベタ褒め、学校の成績が普通でもベタ褒め…。


ー懐かしいな…。


不意に寂しさを感じた。


2人は、この世界の僕も見ていてくれているかな…。


「ユージ。」


僕の名前を呼びながら、リェレンは僕を抱きしめた。


防具をつけていない、彼女の温もりが直に感じられた。


「どうしたの?」


高鳴る鼓動が、バレないように彼女に聞く。


「別に。ただこうしたくなったんだ。」


それは、そういう特別な意味じゃない。


目の前にいる家族の理想を、彼女なりに見せてくれたんだろう。


「そっか。」


そうやって自分を納得させて、彼女の優しさと温もりを、ただ受け入れていた。

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