ダンジョン① 歪
「どう思う?」
「狙われてるよね。」
「明らかだよね。」
冒険の一歩と意気込みやっきた大都市、ネペロ。
そこは教会の管理する都市で、僕らには早速その教会からダンジョン調査の依頼が課せられた。
それについての話し合いが、宿の僕の部屋で開かれていた。
教会が僕らに執着する理由ーー
僕が治癒魔法をつかえること。
普通の魔法と違いこの世界の仕組みからしても説明つかない技術を教会が囲い込めば、それは大きな権力へつながる。
そしておそらく、僕の隣に座る少女、リェレンの力も関係している。
彼女の力も魔法とは言えないらしい。
必要な詠唱やイメージをすべて省いて、毎度のごとく魔物をひねりつぶしている。
過去にも派手に暴れているため、彼女の力が協会に漏れていて不思議ではない。
とにかく、教会からの依頼、それも特別要請ともなれば断ることは絶対にできない。
依頼に成功すれば3人で2,700ペリルを稼ぐことができる。
それだけのお金があれば次の都市まで行くのは余裕だろう。
だが、どこからを成功とするか。
行方不明者を見つければそれだけでいい、とは言えない。
僕は教会の下につくのは嫌だし、リェレンとカルラ、どちらも欠けてほしくない。
教会からの横槍がなくてもそれが叶うかはわからないのがダンジョン調査だ。
この依頼には間違いなく横槍は入ってくる。
ーどうしようか。
「明日は、ダンジョン次第ではあるけど、2人は何もしないでいい。」
リェレンはそんな僕の不安をかき消すかのように言った。
「僕だって属性魔法も一応使える。何もしないわけにはいかない。」
「私だって、レンにばっか負担はかけさせないよ。」
僕とカルラに続けざまに申し立てられ、流石にリェレンもたじろいだ。
「でも、ダンジョンは…。」
「危ないから、って?知ってるよそれくらい。」
リェレンの言葉を遮り、彼らは続けた。
「だから、レンだけに任せるようなことはしない。」
できれば僕が言いたかった。カッコつけるチャンスだったのに…。
こちらを見つめるリェレンに頷く。
彼女は耳まで赤くしてうつむいた。
ここまで赤くなった彼女は久しぶりに見た。
「僕らも頑張るよ。」
リェレンほど強くない。
それでも、彼女とともに生きたいと思った。
だから、僕らはここにいる。
「わかってる!おやすみ!」
リェレンはいきなり立ち上がりそう叫ぶと、一気に部屋から出ていった。
「何、いまの?」
彼女の幼馴染、カルラに聞く。
「さぁね。おやすみ。」
カルラも椅子から立ち上がり部屋を出ていった。
二人が出ていったあとの部屋は静寂が耳に響くほど、静かだった。
◆
翌日。
もう慣れてしまった、ダンジョンの入り口。
しかし大地に空いた空白の違和感は、何度見たってぬぐえない。
1,000ペリルを出費してリェレンは新しい腕の防具を、僕は短剣を、カルラは矢を購入した。
腰に掛けた短剣の柄を握る。
僕はもう、魔法だけには頼れない。
リェレンが一歩を踏み出す。
僕とカルラが続く。
その虚無は、僕らを迎えるわけでも、拒むわけでもなく、ただそこにあった。
ー水?
足元が濡れる感覚に目を開ける。
ー海か。
目線の先には砂浜と山。
そしてーー
「なに、これ。」
カルラがこぼした声に、リェレンが続けた。
「なんか、ゆがんでる。」
その言葉通り、海と砂浜の間あたりから一気に世界はゆがんでいた。
ーこれって…。
「何あれ…。」
カルラが声を漏らす。
彼女の視線を追う。
ー!!
息をのんだ…。
既視感を覚えたその景色の向こう、山の中腹あたりに巨大な魔物が姿を見せた。
その魔物はこちらに気付くと一気に山を駆け下りてきた。
「来る!!」
リェレンが手を前に組む。
その瞬間だった。
水しぶきを上げながら、魔物が林を抜けて現れた。
「なんで?!」
カルラが驚きの声を上げる。
リェレンはもう一度手を組んで魔物をつぶした。
魔物の血が水に広がる。
しばらく、僕らは立ち尽くしていた。
「あんなに、小さかったっけ…。」
「いや…。」
もう一度顔を上げる。
確かに、この魔物は向こうの山と同じくらいの大きさだったはず。
しかし、林を抜けて姿を現した時には僕らの見慣れた魔物と同じくらいの大きさまで小さくなっていた。
遠近法が狂ったのか。
ゆがんだ林。
その奥の山。
ーたぶん。
「このダンジョンの仕組み、わかったかも。」




