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ダンジョン② 虚

 「このダンジョンの仕組み、わかったかも。」


僕は声に出した。


確信があるわけではないが、特徴としては当てはまっている。


「え?」


カルラはこちらを見る。


「仕組みって?」


リェレンも聞いてきた。


「確証があるわけじゃないけど、たぶんレンズになってる。」


たぶん凸レンズだ。


海と陸地の間にそれに似た何かがある。


さっきの魔物と言い、向こうの山と言い、あれは虚像だ。


「レンズ…。」


「って何?」


そうか。この世界にレンズはないのか。


「えぇと、光をどうにかするやつで。細かいことは気にしないで、レン、ちょっと林まで走って。」


あれが虚像かどうか。


その証明に、一番使えるのはたぶん実証だ。


「何がしたいの?」


カルラはこちらを見る。


「これでさっきみたいにリェレンがでっかく見えるよ。」


「そんなこと…。」


カルラの言葉は止まる。


ー実証成功だ。


このダンジョンの仕組みはレンズだ。


だとしても、厄介だな。


ゆがんだ世界に狂う距離感。


「レン、戻ってきて!」


虚像のリェレンはこちらに向かって走り出した。


そして、砂浜と海の境目でいつも通りの大きさに戻った。


「レンのほうからは…」


どう見えた?


そう聞く前にリェレンは答えた。


「二人がでっかくなってたんだけど!!」


 ♦


凸レンズのことに関してはほぼ覚えていない。


焦点より遠いと実像で近いと虚像みたいな。


でも虚像って後ろ側にできるんじゃなかったか?


後ろを見てもただ水平線が広がっている。


いやでも林側からみたら僕らはちゃんと虚像になっていたわけで…。


まぁもういいか。


「とりあえず林の中入ろう。」


行方不明者の捜索がメインなんだ。


このダンジョンの仕組みはまぁレンズ的な何かってことにしよう。


 ♦


浅瀬を抜けて砂浜に出る。


世界のゆがみが一瞬で消えた。


「いったん林の周りを歩こう。」


リェレンの提案に従って林の周りを歩く。


林の中に注意を向けた。


そこから魔物や、教会の刺客や、いるかもわからぬ行方不明者が出てくるかもしれなかった。


だからーー


「ウッ!!」


そのリェレンの声がするまで気づかなかった。


彼女の左腕に刺さった矢。


明らかに魔物のものではない。


痛みにうずくまるリェレンを抱えて林へ駆け込む。


どこからだ?


木陰から海のほうを見る。


「見つけた。」


視線の先に移ったその敵は、普通の人間より大きな、人間だった。


「カルラ、頼める?」


隣に座る彼女に問う。


「あのでっかいのをやるの?」


できることなら。


「足を狙って。」


あいつからいろいろと聞き出したい。


ーそう思っていた。


僕らのすぐ隣に、魔物が来ていた。


大蛇のようなその魔物は、僕らには木陰に隠れた僕らには気づかず、海にいるその大きな人間にむかって、火を噴いた。


大蛇が去るのを待ってから海へ出る。


焼かれたのは虚像のはずだが、そこにはただ焼死体があった。


リェレンの傷を治した時に僕は頭痛にやられてしまったので彼女におぶわれた状態だった。


「ユージ、これって…。」


カルラが言う。


「たぶん、像への攻撃も僕らに来るんだと思う。」


そうなると…。


「いったん林に潜ろう。」


リェレンとカルラは走って林まで潜った。


「さっきの矢もあいつが私の像に向かって撃ったってコト?」


リェレンは背中に背負った僕に聞く。


「たぶんね。」


おろされるものかと思っていたがまったくそんな気配はない。


「にしても、厄介なダンジョンだね。」


カルラは木陰に腰を下ろす。


「ホントにね。」


リェレンもやっと僕をおろして木陰に座る。


「あ、そうだ。」


カルラは思い出したように言う。


「さっきの人は教会騎士団だよ。」


ーまじか。


空を仰ぐ。


このダンジョン調査は、思った以上にめんどくさい。


さっきの火を噴く魔物といい、教会の横やりといい、このダンジョンの仕組み。


全部がかみ合って最悪だ。


それに今回の報酬に関しては調査書だけではいけない。


教会による要請は世間的に神からの命令に等しい。


それに金をつけた時点でその命令をこなさないという選択肢はない。


この都市から早く出たい、そのためには金が必要。


なんだったらさっきの焼死体を持って帰ればいいが。


「出口も結構遠いから逃げるのも大変だよね。」


あまり動けない僕に加えて焼死体をもって出口を目指す…。


ちょっと面倒だ。


それに


「カルラ。」


「ん?」


「教会騎士ってどうやって判断するの?」


「基本は腕の入れ墨だけど。あの人腕はギリギリあったから。」


腕の入れ墨…。


もしあの死体をもっていったとしたらどうなる。


教会騎士を殺した罪、なんてものが懸けられたっておかしくない。


結局、どうかしてでも行方不明者を見つけるしかない。


少なくとも、この林の中は普通のダンジョンと同じ。


気を付けるべきなのは海側からの刺客。


こちら側の焦点距離以上に進めばその心配もないわけだから。


「一旦奥まで潜ろう。」


二人は驚いたように僕を見た。


ー逃げないの?


二人の目はそう言っていた。


立ち上がる。


この三人で、最後まで進む。


そのためには、ここで進むしかない。


「行こう。」


二人が迷ったときは、僕が進む。


初めて先頭に立って、ダンジョンの奥へ進んで行った。

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