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序章

 「だ~いぶ派手にやられたわねあんた。」


街の中心に戻って、大きな病院で診察を受けた。


女医のおばさんは僕の体のあちこちを押して調べてそう言った。


たしかにまぁ…派手にやられた。


「容赦ないっす。魔物。」


ベッドにうつぶせに寝かされながら言う。


「そらそうだ。あたしらは人間で、魔物は神の使いなんだから。近づいたら怒られちまうよ。」


これが、この世界の常識。


「金がほしいもんでつい。」


僕が教会の方針を信じていないことがばれないようにしないといけない。


こういう職業の人は信仰が篤いイメージがある。


「ははは。これに懲りたら冒険者はやめることだね。」


女医の出した診断結果は、全身打撲と腕の骨折。


一週間の入院と安静が言い渡された。


病院のベッドによこになると、いつも思う。


野宿より病院のほうが断然いい、と。


 ◆


市長とギルドへ依頼の失敗を報告しに行っていたリェレンとカルラが病室へ入ってきた。


「大丈夫?」


「報酬は3人で900ペリルだって。」


リェレンは心配して、カルラは報酬の報告をした。


当初は3人で2,100ペリルの予定だったので半分以下に沈んでしまったが、まぁしょうがない。


ーそろそろかな。


ほぼ毎日依頼をこなして、報酬もこつこつ貯めてきた。


今、僕らの財布には1,600ペリルの貯蓄がある。


日本円にすると8,000円だが、この世界の物価は基本安い。


僕らの目的は、北上。


ここから北の大都市、ネペロまでの馬車が3人で1,200ペリル。


むこうの物価の情報が何もないが、それでも400ペリルあれば十分だろう。


「2人にお願いしてもいいかな。」


『何?』


2人は口を揃えて答える。


「カティアルトからネペロまでの馬車の予約と、僕が退院するまで依頼をこなしておいてほしい。」


お金はあるに越したことはない。


2人は顔を見合わせて、やがてこちらを見て頷いた。


「今日からでも行ってくる!」


「ユージは休んでてね!」


2人は病室から勢いよく駆け出していった。


勇者に憧れ、自称する少女。


その少女を、勇者と認めた少女。


なら僕は、彼女たちを本物の勇者に仕立て上げる。


彼女たちに救われた一人として、本当の意味での、勇者に。


 ◆


1週間はあっという間に過ぎていき、僕らは退院の日を迎えた。


リェレンとカルラの2人はこの1週間で合わせて2,400ペリルも報酬を稼いだ。


ちゃんと上限も頭に入れて依頼を選んだらしい。


リェレンが自慢げにそう言っていた。


自治都市テンドからカティアルト公領の首都カティアロナへは歩いて1時間程度。


教会があったり、畑が広がっていたり、すれ違う人がいたり、はるか向こうに大きな山脈が見えたり。


ー広いな。


東京は遠くを見ようとしても大きなビルに塞がれて、どうしても狭く思えてしまっていた。


でも本当はーー


一生かけても知りきれないほど、世界は大きく広がっているんだ。


旅立ちを祝福するかのような快晴の空に、白い鳥が飛んでいった。


 ◆


「はい、じゃあ出発ですよ。」


カティアロナの輸送業者はそう言って馬を走らせ始める。


ガタゴトと、規則正しく荷台は揺れる。


正面に座る2人の少女と、つぼに挟まれて小さくなっている僕。


少し前まで、こんなことになるとは微塵も想像していなかった。


それでもーー


怖くない。


「楽しみだね。」


自然と気持ちは声に出る。


「うん。」


「そうだね。」


2人も笑って答える。


 ◆


旅に出るーー


それは、世界を知ること。


これは、僕らの冒険の、序章に過ぎない。

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