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ダンジョン① 証

 市内にダンジョンが発生した。


その噂は昨日の依頼を終えたあと、居酒屋で耳にした気がする。


たった1日で10名以上が行方不明になった。


ランク4の冒険者に頼むような依頼では到底ない。


しかし、以前林を1つ潰したことで、リェレンの力は市長に知られている。


彼女の力はランク2の冒険者が手こずるダンジョンを無傷で生き延びるほどだ。


このダンジョンの正確なランク予想は出ていないが、予想段階ランク1以上。最悪特級もありうる。


通常であれば都市の騎士団や有志の冒険者による捜索隊が作られるが、何やら今は国際情勢が不安定らしく騎士団は出払っている。


教会騎士団の動きが一切見れないのが少々気になるけれど、今教会の事を気にしても仕方がない。


とりあえず路銀を貯めて北上すれば、僕らの目的も教会からの命令も達成されるわけだから、依頼をこなす他ない。


 ◆


たどり着いたダンジョンの入り口は野原のど真ん中にあった。


ポツンとそこだけくり抜かれたような暗闇があった。


ー不気味だな。


誘われているようにも、拒まれているようにも感じる。


世界に空いた穴、それがダンジョン。


ある者は財宝を、またある者は神界を求めてそこへ踏み入る。


「行こう。」


リェレンの一声で、僕らも足を踏み入れる。


もう、神様の声は聞こえない。


 ◆


足を踏み入れた先、ダンジョンの中。


入り口の暗闇を抜けた先には、ただ、街が広がっていた。


「これは…。」


カルラが驚きの声を上げる。


それもそのはずだ。


僕が以前入ったダンジョンは林のなかに海があるような、そんな狂った場所だった。


「廃墟…?」


リェレンも困惑しているようだった。


人の消えた、街。


石畳の道を歩く。


硬く響く靴音しか聞こえない。


だからこそ、人ならざるものの音は、大きく聞こえた。


「上だ!」


いち早く魔物を発見したリェレンが手を前に組む。


その魔物はコウモリと蛙が混ざって巨大化したような、やはり、魔物だった。


しかしそれは僕らのもとへ辿り着くことなく、空中で潰された。


ーとんでもないな。


リェレンは、ああやって魔物を潰すことができる。


魔法とは違う、不思議な力だ。


雨のように降ってくる魔物の血を浴びる。


リェレンの力を心配していたわけではないが、それでも、心音は走ったあとみたいに早くなっていた。


血が降り終えたあとも、リェレンはしばらく不思議そうに自分の手を見つめていた。


「どうしたの?」


「いや、なんとなく…」


僕の問いかけに、リェレンが答えようとした時、彼女の後方からまた魔物が現れた。


「危ない!」


咄嗟に、僕は叫んだ。


彼女はすぐに身を翻し、魔物の姿を捉えた。


鹿の角の生えた巨大なトカゲ。


その舌が、鋭くこちらへ伸びてきた。


僕は頭を抱え尻もちをつく。


リェレンの腕のあたりから鮮血が飛び出たのが見えた。


躱し切れなかったのか!?


「二人とも頭さげて!」


先程の魔物の肉片を調べていたカルラが、いつの間にか弓を構えていた。


その矢は魔物の目を完璧にとらえた。


痛みなのか、魔物がのたうち回る間に、リェレンが潰した。


「大丈夫?!」


抜けた腰をはめなおして、僕は急いでリェレンに駆け寄り、彼女の腕を見る。


「かすり傷だよ。」


彼女は微笑みながら答える。


確かに、傷口はそれほど深くはない。


それでもー


「すこし…いいかな。」


僕は彼女の腕へ手をかざす。


目を閉じ、集中する。


火の魔法を使ったとき、僕はイメージをしていた。


火の玉を作り出すイメージを。


ならば、傷を癒すイメージを、それを現実にするのが、治癒魔法なら。


彼女の腕の傷は、目を閉じても瞼の裏に焼き付いている。


その傷が、塞がる。


初めて使ったとき、あのときは、神にすがるしかなかった。


あの時の温もりが、また手から感じられた。


目を開ける。


彼女の傷は、確かに、塞がっていた。


「ユージ…。」


リェレンは目を丸くして、ただ僕の名を呼んだ。


この世界に、ごくありふれた技術ーー


魔法。


その中に、ただ一種、限られた人間にしか使えない魔法がある。


それがーー


「治癒魔法…。」


僕が与えられた、1つの才能。


止まらない冷や汗と、グラグラ揺れる視界。


それが何よりも、治癒魔法を使った証に思えた。

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