勇者パーティーの日常
「ダンジョンは神の世界へ通じる聖なる穴である!魔物はその穴を守る守護者!神の御使いである!」
都市の真ん中、噴水広場で修道士は叫ぶ。
「ダンジョンは世界の構成要素が失われたことで生じる穴なんです。」
大学の隅、隠れた研究者はつぶやく。
いずれの主張をとるにしても、世界に穴があいている、ということは変わらない。
◆
「イサゴ=ユージさん。ランク4へ昇格です。おめでとうございます。」
受付嬢から更新された冒険者証明書を受け取る。
ランク4。
簡単な魔物討伐の依頼を受けられるようになる。
個人的に行くつもりは毛頭ないが…。
「ユージ!これに行こう!」
金髪の自称勇者、リェレンは魔物討伐の依頼書を持ってくる。
「いくら?」
この世界は意外と世知辛い。
お金事情は大切だ。
「3人で600ペリル、保証金300ペリルだから…1人900ペリル!」
指を折って数を数え、彼女は僕の質問に答える。
900ペリル…悪くない。
「ユージも私も、たぶん何もしなくていいよ。レン強いし。」
黒髪でリェレンの幼馴染のカルラがこそっと耳打ちする。
「お金もオーケーだし、行こう。」
僕個人では、危険な依頼を受けるつもりはない。
この2人と一緒だからこそ、どんな依頼もできる気がする。
◆
依頼の内容はダンジョンから出てきた魔物の討伐。
魔物はダンジョンから出てくると急激に力が弱くなるらしく、強さ的には犬と同等らしい。
正直よくわからない。
魔物が弱まる理由は、神の御使いが人間の世界に適応できなかった、というのが教会の説明だ。
ダンジョンは魔物に関しては、分からないことだらけである。
◆
目標のダンジョンの入り口までやってきたが、魔物らしき姿はない。
討伐しないと依頼失敗になってしまう。
目撃情報があったくらいだ。もう少し林を抜けた先にいるのかもしれない。
僕とカルラ、リェレンの二手に分かれて捜索することにした。
「出来れば魔物とは戦いたくないんだよね〜。」
林道を歩きながらカルラはそう言う。
「どうして?」
怖いからと言われれば納得してしまう。
「なんというか、魔物も結局、私たちの成れの果てみたいに見えてね。いつかああなるって思うと、何だかね…。」
なんと返事をすべきか、迷っているうちに黙ってしまった。
落ち葉を踏みしめる音だけが、耳に届く。
…気まずい。
会話のキャッチボールから考えると、僕から話さないといけないが、何を話すべきか。
話題をそらすのは違う気がする。
「魔物…いないね。」
話題をそらしたのは、カルラの方だった。
正確に言えば、彼女に話題を変えさせてしまった。
「…リェレンがぺちゃんこにしてるかも。」
そうだと楽なのだが。まぁ、ケガしてなければいい。
「私、レンほど強くないからね?いざとなったらユージも属性魔法使ってね。」
僕がこの世界に来る時、確かに神様から治癒魔法の才能をもらった。
しかし、実際自分の意思で使えたのは属性魔法と言われる火魔法だけ。
「一発で気絶するけどね。」
そう、なぜか僕は魔法を一度使うだけで気絶してしまう。
魔力切れなのか?
そもそも魔力があるのかも分からない。
「それ不思議だよね、大体ーー」
カルラの言葉を遮るように、頭上からべチャリと何かが落ちてきた。
紫色の、猿?
「魔物だね。だいぶ弱ってるけどユージは下がって。」
カルラはそう言って、手のひらをその猿に向けて目を閉じた。
「神の庭、世界の恵み、作り出す水の精霊よ。私の意志に応え、その力を顕現せよ。」
詠唱。
現れた水の槍は、次の瞬間、猿を貫いていた。
◆
「かんぱ〜い!」
結局手続きや証明やらで夕方まで時間を取られてしまった。
風呂にはいるその前に、お決まりの居酒屋で女性陣はビールをあおる。
僕ももう味に慣れた焦げた焼き鳥を頬張る。
勇者パーティーの冒険ーー
想像上のそれは、もっとかっこよくて、もっと感動的なものだった。
しかし、実際は野宿で、そもそも勇者は自称で。
居酒屋で酔いつぶれた2人を背負って、人気のない通りを歩いて終わり。
それでも、それが僕らの冒険だ。
自称勇者のパーティーは、こうやっていつか、世界を救う。そしてその日も、酒を飲んで酔いつぶれる。
そんなエンディングを想像して、彼女らの吐瀉物で汚された服を着替えた。
◆
そんな日常は、いつまでも続くわけではない。
翌日のこと。
『ダンジョン発生に伴う行方不明者の捜索』
市長から直々のご指名だった。
そして、この依頼が、僕らの運命を、大きく変える。
「行こう。」
そんなことを想像さえせず、僕らは歩いた。
後ろから、重く暗い雲が、僕らを見ていた。




