26.舞踏会への招待状 side白川結衣
一条家分家一乃瀬家当主 一乃瀬大和様
秋風の候、ご一家の皆様もお変わりなくお過ごしでしょうか。
平素よりお世話になっております。
日頃の王国運営、王家へのご協力に感謝致します。
感謝の意を込めて下記日程にて行われる王室舞踏会へご招待致します。多くの方のご参加をお待ちしております。
記
日時:王暦235年10月29日
場所:東雲王国王宮 華の間
参加者氏名を記入の上、開催日の2週間前までに王宮貴族統括室まで提出してください。なお、舞踏会にてファーストダンスをご希望される場合はお相手の名前を記載してください。
東雲王国国王 東雲旭
代筆 東雲王国宰相 雨ノ森潮
今年は観劇会じゃなくて舞踏会なのね……。せっかくお芝居が見られると思ったのに、つまらないわ。それなら私は留守を預かろうかしら。
「おい。顔に出てるぞ」
「うるさいわね、何かしら」
王家から届いた招待状を手に、私は深くため息を吐いた。様々な貴族が集まる年末の王家主催の催し物は、年に1度の社交の場で重要な機会であることは理解している。それでもあまり人混みには行きたくないーー。一条家のメイド長と言う立場なら、留守を預かるとはもちろん言い出せないけれど、私は現在兼務という形で一乃瀬家に身を置いている。公爵家のメイド長と、伯爵家の兼務のメイドなら立場は大きく異なる。行かなくてもーー
「お前さっきからうるせぇな……。留守番は泉と耕介だ。お前は出席!」
「どうしてかしら?」
隣に立つ快星くんが私から出欠表を取り上げてそう言ってきた。
「さっき坊ちゃんに確認した。ファーストダンスもお前の名前で書いとけって」
「……どういうことかしら」
この国の舞踏会はきちんとしたマナーがある。ダンスは3回と定められており、
まずファーストダンスは基本的には当主と誰かーー、この場合の誰かは同じ家門の人間でなければいけない。つまり家の代表同士が踊る。続くセカンドダンスは、家同士のお付き合いで別の家門の相手と踊る決まりだ。最後にラストダンス、これは相手自由で誰でも踊る事ができるーー意中の相手を誘ったり誘われるのを待っていたり、出席した年頃の男女ではここが1番大切だ。
そのファーストダンスの相手に私を選んだという事はーー。
「坊ちゃんには未だ、婚約するようなお相手がいないという事ね」
「そうだな。裏を返せば、当分はそんな相手はいらねぇって世間に言ってるって事だな」
そろそろ年頃なのだから、坊ちゃんにも身を固めて頂きたいわ。でも、それを口にすると坊ちゃんよりも1つ年上の私と快星くんは何を言われるか分からないわと思いながら口を噤む。
ふーっと息を吐き出すと口から言葉が零れ落ちた。
「あまり……行きたくないのだけれど……」
目立つ場に行くのは好きじゃないーーいや、行って見つかるのが怖いのだ。王国なら安全だとは思うけれど……。
「……なるべく、側にいる」
そう言って隣にいる彼はきっと、私の胸の内を把握しているんだろう。いつだって静かに側にいてくれる。人に頼るのは好きじゃないけれどーー。、
「そうね」
そう返事をするのが精一杯の肯定だった。




