25.久しぶりのお姉ちゃん
「今年は観劇会じゃなくて、舞踏会が行われるみたいなんだ。柚子ちゃんには出欠の返答を書いて貰いたくて……あとこの辺りの書類が……」
「承知しました。柚子にいくつか教えておくわ」
光くんが結衣さんが来るで!!とキッチンに駆け込んで来たのはつい先程の出来事だった。光くんと2人早歩きでキッチンから応接室にやってきた私を待ち受けたのは、大雅くんと立花さん、お姉ちゃんと快星くんだった。どうやら呼び出したのは一条家のようで、仕事内容についてお姉ちゃんに確認がある様子だ。簡単な挨拶の後、ゆっくり話す間もなくお姉ちゃんと立花さんは仕事の話を始めた。
「快星くーん!久しぶり!」
「そんなに久しぶりか?……しょっちゅう電話してるだろ」
「え!柚子ちゃん、一乃瀬家に電話ってこの人……」
「おい!えーっと、望月?だっけ?勘違いすんな。俺が電話番の時間に『お姉ちゃんに代わって!!』って高頻度で電話してくるんだよ!コイツが!」
「コイツじゃない!!柚子!!ってか、光くんの名前くらいもう覚えてよ!」
部屋の隅で快星くんに話しかけると、光くんも会話に混ざってきた。なーんで、快星くんってコイツとかお前とかばっかり言うんだろう。だから、光くんの名前も覚えられないんだよ!まったく……これで一乃瀬家の執事長が務まるのか。
「柚子ちゃん、顔が膨れてんで」
「なんか柚子ふんって感じ!せっかくお姉ちゃん来たのにぜーんぜんお話してくれない!」
「まぁまぁ。もうすぐ立花さんとの話も終わるからそしたら話せるからな?」
光くんに宥められてから、少しするとお姉ちゃんがこちらにやってきた。
「柚子、久しぶりね。元気だったかしら?」
「お姉ちゃん~!柚子元気だったよ!お姉ちゃんは??」
「元気よ。……困ってることはないかしら?」
「修斗くんがうるさいくらい!」
「そう、相変わらずなのね」
和やかにお姉ちゃんとの会話が始まる。他愛もない事ばかりだけど、やっぱり楽しい。
「そう言えば、舞踏会ってなぁに?」
この部屋に入った時のお姉ちゃんと立花さんの会話を思い出す。舞踏会ーー学校の授業で習ったし、卒業の時に行われた社交の場という認識だ。
「王家が貴族を招いておもてなしをしてくださるのよ。1年を労ってくださると言えばいいかしら。ここ数年は、毎年観劇会でお芝居の上演だったのだけれど……今年は舞踏会みたいね」
「舞踏会って何年も開催されてないよねぇ?」
「ええ……あまりにもパートナーになる女性の数が少なかったから。ただ、メイドでもパートナーとして登録できることになったから今年は開催を試みたのかしら」
数年前にこの国を襲った流行病の影響で、私達の親世代と私達と同年代の女性は少ない。その影響が舞踏会の開催にも影響しているようだった。
「登録するの?」
「ええ。立花さんに柚子へ書き方を教えるように言われていたわ。まず、招待状のお返事に当日出席者氏名を書いてね。それからーーご当主様のダンスのパートナーも記載欄があるから忘れずに記入するのよ」
「大雅くんのパートナー??」
チラッと向こうで紅茶を飲む大雅くんを見ると、こちらを見て満面の笑みを浮かべた。
「柚子。よろしく頼む」
ぽかーんと口を開けるしか出来ない私に、書類に自分の名前を記載するように言うお姉ちゃん。一条家のご当主と踊るなんてすごい名誉だけど、私に務まるのかな。ってかダンス久しぶりだ!そんな不安と戸惑いと少しのワクワクが入り混じる夕刻だった。




