29―3 晶人の日記Ⅸ 「幸せとは何か」教えてください
ソフィアが今夜も、俺が過去に書いた日記が読みたいと申し出てきたため、ソフィアに日記を読ませた。ソフィアに俺が書いた日記を毎晩、寝る前に読ませるのは習慣になってきたようだ。ソフィアは賢い。何かを学ぶために読みたいのだろう。俺の日記がソフィアのためになるのなら読ませてあげたいと思う。
「ソフィア、じゃあ、今夜はここのページを読んでね。」
「はい、分かりました。」
そう言って、ソフィアは俺が書いた日記を読み始めた。
― 「幸せとは何か」教えてください ―
今日は、県内でも有名な進学校へ呼ばれ、PTA総会後の残り40分を使って、「『幸せとは何か』教えてください」というテーマで講演をすることになった。
自分の足跡を残すために、今日の講演の内容を記録したテープを聴きながら、日記に載せることにした。
今日の講演会のテーマは、「『幸せとは何か』教えてください」となっていますね。皆さんは、幸せって何だと思いますか?
それでは、大学院で心理学を学んだ者として、「幸せとは何か」についてお話ししましょう。
幸せに関する心理学の学術論文は山ほどあります。それぞれの学術論文によって幸せ、つまり幸福の定義は多少の差異があります。幸せとは、当たり前の話ですが、肯定的な感情のことをいいます。決して否定的な感情ではありません。つまり、肯定的な感情とは、喜びや笑い、安らぎ、興味・関心、希望・夢、感謝の念、愛情を与え、愛情を与えられる関係などが肯定的な感情といえます。
心理学者の肯定的感情の研究に関する第一人者であるフレドリック先生は、これらのポジティブ感情をもつことで、幸せになると定義づけています。それでは、具体的な3つの中身を紹介しましょう。
1 幸せとは、夢中になれるものや無心になれるもの、子供心になって遊べるものがあることです。
幸せとは、夢中になれるものや無心になれるもの、子供心になって遊べるものがあることであり、時間を忘れて夢中になることです。または、何かに集中していて、そのことにすれ気付いていない無心の状態になっていることを意味します。
つまり、幸せになりたければ、夢中になれるものや無心になれるもの、子供心になって遊べるものを見つけることが肝要です。そして、それ自体を楽しめるような何かに自らが気付いて、発見して取り組むことと言い換えられます。
具体的には、次のような例が考えられます。
① 犬や猫などのペットのお世話をしたり、触れ合っているとき
② ガーデニングなど土を触り、花を育てたり、花の写真を撮ったりしているとき
③ 縫物をしているとき
④ 手紙や物語など文章を書いているとき
⑤ デッサンやマンガ、絵を描いているとき
⑥ 仕事で疲れ切った体をバスタブに横たえたとき
⑦ 今日も一日がんばったというご褒美の意味付けをしてビールやお酒を飲むとき
⑧ 大切な友人や知人とワイワイガヤガヤと飲み会をしているとき
⑨ 今日も一日、自分にとってかけがえのない人が無事に生きていると感謝するとき
➉ 自分が窮地に立たされたとしても自分を支えてくれるかけがえのない人がいると再認識したとき
⑪ 将棋や囲碁、ネットゲームなどに没頭しているとき
⑫ XやFacebook、LINE、ブログで多くの人々と交流をしているとき
⑫ 無心になって釣りを楽しんでいるとき 等々、他にも沢山あります。
2 幸せとは、自分にとってかけがえのない他者を大切にすることである。
様々な研究によって、自分にとってかけがえのない他者を大切にしたり、関わったりすることは、人生全般の幸福度に大きな影響を及ぼすことが明らかにされています。つまり、裏を返せば、自分の存在をあまり重要視していない人たちとの付き合いは、幸福度を急降下させる結果が指摘されています。したがって、自分の存在を重要視していない人たちからの遊びの呼びかけや飲み会の誘いなどに行くと、精神的なストレスを抱えることが明らかにされているのです。
手前味噌な話になりますが、私自身は、自分の存在を大切に思っていない人たちとの付き合いは避けています。避けるというよりも、手放すといったほうが表現として適切でしょう。その人たちと一緒にいるだけで、安心感に包まれ、大笑いし、馬鹿話に興じる方が、幸福感が高くなることを自覚しています。したがって、それらの人たちとは可能な限り、能動的に間接的に接触します。現在は、コロナ禍の状況でそうもいきませんが、電話連絡やLINEなどを通して接触しておくことが肝心です。
自分にとって、かけがえのない大切な存在の人たちとは、自分自身が、心から支えられていると感じられている人間関係をもつ人たちであると定義されています。そっと自分の目を閉じて、自分の頭の中で、自分にとって心から支えられている人間関係を持つ人たちの顔を一つ一つ思い浮かべることも幸福感に与える影響が大きいことが明らかにされています。
3 人間が欲しているのは、幸福ではなく、幸福になる理由であるであることに気付く。
ユダヤ人大虐殺のホロコーストの中で、最後まで生き抜いた精神科医・心理学者のヴィクトール・フランクル博士は、名著「夜と霧」の中で次のことを述べています。
「幸せになりたければ、人生の意味や意義、そして目的が必要だということです。『何をしたいか』『夢とは自分にとってなにか』という自己実現的な考え方ではなく、
①私は、この人生で今何をすることを求められているか
②私のことを本当にかけがえのない存在として必要としている人は誰か/その人はどこにいるか
③誰かのため/社会のため/世の中のために、私にできることは何か
人生でどんな幸福を手に入れたいかという視点ではなく、私自身の人生に求められていることは何か、人生に意味や意義を見出すことで幸せになるという考え方です。素敵な発想だと敬服いたします。
以上が、大雑把ではありますが、学術論文で明らかにされている幸せの中身と答えです。心の片隅にでも置いて下さい。
さて、夜、ビールやお酒を飲むときは、何も考えずに飲むのではなく、「今日も一日頑張った私は偉い」と心の中でつぶやいてから飲んだほうが脳の活性化が高いことが学術研究で明らかになっています。
自分が頑張ったことや取り組んだことは、自分自身を認め褒めるようにしてください。すると自己肯定感や自己有用感、自尊感情が向上することも数々の研究で明らかになっているのですよ。これもまた、幸せなことなのではないでしょうか。
「晶人さん、素晴らしいお話です。私は花が大好きで育てるのが特に好きです。土を触っているとほっとします。それに育てた苗が生長し、花が咲き乱れると感動します。これも幸せなんですね。それにもっと幸せなのは、晶人さんと晴人とソルフィーナと一緒に過ごす時間です。あっ、それから晶人さんは子煩悩だから晴人とソルフィーナをいろんなところに遊びに連れて行ってくださいますよね。私のその時間を使って、編み物をするときも幸せです。晶人さんは?」
「う~んとね、晴人とソルフィーナと川で釣りをしたり、川遊びをしたり、草原に虫を取りに行ったりするときも最高に幸せだね。でも、いちばん安心してホッとできるのはソフィアと一緒にいるときかな。」
「キャハ、嬉しーい!」




