2-4 大爆笑!愉快な仲間たち 2
昔は、「体罰」という言葉も概念も社会に浸透していなかった。だから、教師から叩かれたり殴られたりしても生徒は我慢するしかなかった時代だった。
親に教師から叩かれたことを言うと、「お前が悪いから叩かれるんだ」と言われ、また親父から叩かれる時代だった。
それにしても、私や福山智勝、和田秀吉が中心になってつくったチーム「ぼっけもんず」のメンバーには規格外の連中が多かった。
「ぼっけもん」とは古くからある鹿児島弁で「変わり者」や「荒くれ者」などの意味があり、良い意味で使われる方言ではなかった。まるで映画の「スタンド・バイ・ミー」の世界だった。
私や福山智勝、和田秀吉が中心になってつくったチーム「ぼっけもんず」のメンバーになる基準はシンプルだ。アホと変り者と超おもしろい奴と喧嘩が強いこと、そして、義理と人情に厚いこと。その1つに該当すれば、メンバーになれるのだ。しかし、ちまたで「ぼっけもんず」の悪名が少しずつ広がってから、メンバー入りを断る奴が多くなっていった。メンバーの中には、黙っていれば済まされることを、みんなに平然と言うのだ。だからチーム「ぼっけもんず」は異端児の集まりと危険視されていた。
例えば、小学生時代、冬に白いタイツを平然と履き続けた桑名弘正は、中学生時代に親戚が飼っている紀州犬に興味本位で棒でつつき、胸を噛まれた出来事があった。黙っていれば誰にもばれないのに、皆に噛まれた傷を見せびらかすのだ。そして、乳首の脇にはV字の形をした痛々しい傷跡が残っており、仲間全員が心配しているにもかかわらず、本人自身は、
「イェーイ、ビクトリーのVだぜ。ビクトリーのVだぜ。」
と自慢するのだ。弘正自身のおバカな振る舞いに、全員がため息をついていたこともあった。
さらに、桑田弘正は、中学生時代にアルバイトを禁止されていたにも関わらず、ペットショップでアルバイトをしていた和田秀吉から無理やり伝書鳩をテーマにした漫画を渡され、その漫画の内容に強く感動した弘正は、和田秀吉から伝書鳩を買わされたのだ。しかも、成鳥である。
伝書鳩というのは、生後間もなくから飼い始めて、人間に慣れさせる訓練をし、帰巣本能を生かした訓練を少しずつやっていくのが適切な育て方だったのだ。しかし、和田秀吉は、前述した知識のない桑田弘正に8羽の伝書鳩を買わせた。弘正に金額を尋ねると数万円もしたという。
弘正は、裕福な家庭に育ち、唯一の長男であったため、親から甘やかされて育ってきた経緯があった。何のアルバイトもしていない弘正に和田秀吉は一緒にペットショップのアルバイトをしないかと誘い、子分のように手懐けたのだ。校則違反をしながら闇バイトをする和田秀吉と桑田弘正。和田秀吉は、その桑田弘正に高額の伝書鳩を売りつけ、弘正は父親に頼み込み、ベランダにとても大きな伝書鳩小屋を2つもつくってもらっていた。
「おい、晶人、智勝、鉄之進、和隆、俺はよお~、伝書鳩を買ったんだぜ。土曜日のお昼に空に放してみようかと思っているからよお、見に来てくれよ。」
と言われ、4人で弘正の自宅に出かけた。弘正の自宅は一等地に立っており、2階に上がると、広間の外に広いベランダがあった。そのベランダの両脇には父親が作ってくれた伝書鳩の小屋があった。弘正が自慢気に、
「智勝、晶人、鉄之進、和隆、よ~く見ておけよ。今から伝書鳩を放つからよお。」
そう言って、弘正は左右の伝書鳩の小屋の入り口を開いて、大声で言った。
「行っけー!大空に飛び立て!」
と威勢よく8羽の伝書場を大空に放した。8羽の伝書鳩は、それは見事に大空に向けて飛び立っていった。だが、私はその姿を見て、強い違和感を覚えたのだ。
なぜならば、8羽とも同じ方向に飛ばずに、四方八方に飛び立って行ったからだ。勿論、当時の私も仲間たちも伝書鳩の適切な育て方や訓練の仕方など知る由もなかった。そして、1時間経っても1羽たりとも伝書鳩が帰ってこないため、駅前のスーパーでスナック菓子とジュースを買って、弘正の自宅で伝書鳩の帰りを待つことにした。そして、2時間経っても3時間経っても1羽も帰ってこないのだ。さすがに待ちくたびれ私たちが帰宅しようとした瞬間、弘正が
「智勝、あれはチャッピーだ。チャッピーに間違いない。白い羽に黒の模様が入っているから分かるんだ。あれはチャッピーだ。駅の方へ飛んでいったぞ。智勝、晶人、鉄之進、和隆、捕まえるのを手伝ってくれ!」
と哀願されたのだ。
すると、智勝が、
「手で捕まえるのは無理だぞ。弘正、お前、釣りで使う大きなタモを持っていただろう?あれを持ってこい!俺は自宅からカブトムシ用の網を持ってくるからよお。それで、晶人と鉄之進と和隆は、俺が指示する通りにチャッピーを追い込んでくれ。」
そうして、我々5人は階段を下りて、駅前広場に走っていった。すると、時計台の下に、弘正が言う「チャッピー」がいたのだ。すると目の色を変えた弘正が、
「晶人、鉄之進、和隆、動くな。下手に動くと逆に逃げられてしまう。俺と智勝が両脇の後ろからそっと近づいて捕まえるから、お前らは待ってろ!」
「弘正、慎重に動けよ。逃げられるぞ。ゆっくり動け!」
と和隆がアドバイスした。
弘正と智勝は慎重に歩を進めながら白い時計台の後ろの方から挟み撃ちにするべく行動を開始した。我々はその様子を固唾をのんで見守っていた。チャッピーの3m後方まで迫った弘正と智勝は、網を出そうとした瞬間、とっさに気付いたチャッピーが北西の方に逃げていった。
「くそっ、失敗した!」
弘正は、そう吐き捨てると、我々に北西の方向に探しに行くように頼んだのだ。その時、その方向近くに住んでいた鉄之進が、
「弘正、児童公園の可能性が高いんじゃないのか。」
とアドバイスしたため、我々は汗をかきながら児童公園の方へ走っていった。すると、鉄之進の言う通りにチャッピーがいたのだ。でも広場の真ん中にある芝生の上にいたため、下手に近付くことができなかった。
「あっ!チャッピーのところへ『チェルシー』と『シェパード』が集まって来た!」
と慌てふためく弘正の声を聴いて、晶人たちは吹き出しそうになっていた。なぜなら、「チェルシー」は我々が幼いころからテレビのCMで有名になっていたキャンディーの名前と同じで、「シェパード」は警察犬として有名な犬種の名前だったのだ。
弘正は内心穏やかではなかった。高額で和田秀吉から買わされた伝書鳩が一気に居ないくなったからだ。すると、「チャッピー」が東側に飛び立つと「チェルシー」も「シェパード」も飛び立って、鉄筋コンクリート製のトイレの上に止まった。
「どうしよう?どうしよう?どうしよう?」
と不安な気持ちを口にする弘正。我々も打つ手が見つからなかった。そうしていると、親子連れがトイレに入って行った。その瞬間、「チャッピー」が飛び立つと、その後を追って、「チェルシー」と「シェパード」も北の方へ飛び去ってしまった。弘正の落ち込みぶりには悲壮感が漂い、我々も声がかけられないほどだった。
そして、後日、我々は和田秀吉を呼び出して、事の顛末を話した。晶人は怒り気味に、
「おい、秀吉、弘正の伝書鳩は一匹も帰ってこなかったぞ!」
と問い詰めると、
「ほんとか?マジか?」
と反応した。
伝書鳩の本を図書室で探し出して調べた智勝が、
「秀吉!伝書鳩は、ヒナから育てて訓練しなきゃダメなんだぞ、お前知っていたか?」
すると、秀吉は、
「いや、知らなかった。」
と答えた。その反応を聞いた晶人が、
「お前は、ペットショップの店員なんだろうが!伝書鳩の育て方とか訓練の仕方まで調べて、弘正に売るべきなんじゃなかったのか!」
と怒りをぶつけると、
「悪かったよ。ごめん。」
と弘正に謝罪した。
ところが、秀吉は同じペットショップで闇バイトをしている弘正に性懲りも無く、「伝書鳩失踪事件」の嫌な過去や失敗などがあったにも関わらず、懲りずに、その半年後に7万円もするアマゾンに生息する大きなオウムを売りつけたのであった。
結局、弘正は裕福でお金を持っているため、秀吉がペットショップのバイトに誘い、ノルマを達成するために、弘正に強制的に買わせたのではないかという噂がぼっけもんず内に広がっていった。その際、智勝が、
「おい、秀吉は、敵に回すと途轍もなく恐ろしい奴だが、味方にするともっと恐ろしい奴だから気を付けろよ!だまされんじゃ、ねえべ。」
という言葉を伝えた。その言葉は、現在に至るまで名言として受け継がれていることは言うまでもない。
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