第2話 エルフの里
「私たちの里がどうなっているか、ですか?」
僕の話を聞いたアンナさんは、大きな目を丸くする。
本名、アンナローゼ・レガルノウス。エルフの里の里長である彼女は、里のことに一番詳しいはず。なので僕は女神様の話を聞いた翌日に、彼女に話を聞きに行った。
アンナさんの住んでいる家には立派な庭園が作られていて、そこで美味しいハーブティをいただきながら僕たちは話をしている。アンナさんの後ろにはその妹のエレナさんもいて、僕たちの話に耳を傾けている。
「申し訳ありませんが、私たちの里がどうなっているかは私も存じません。私も気になっているのですが、この村に住ませていただいてからはあそこには行けていませんので」
「そうですよね……」
ここからエルフの里までは、結構な距離がある。
道中は瘴気で汚染されているし、モンスターに襲われる可能性も高い。気軽に様子を見ることは難しいよね。
「それにしてもどうされたのですか? 急に里のことを気にするなど、なにかあったのでしょうか?」
「あ、それはえっと……そう! 女神様のお告げがあったんです。エルフの里になにか動きがあるかもしれないって」
僕は少しぼかして答える。
女神様はこの世界では凄い敬われている、神聖な存在。そんな女神様とフランクに話しているなんて知ったら、女神様の神聖さが薄まっちゃうかもしれない。
なのでお告げで聞いた、ということにする。うん、嘘はついていないはずだ。
ちょっと嘘っぽい言い方だったかな? と心配になるけど、それは杞憂だったみたいで、
「それは……なんと素晴らしいことでしょう! 女神様のお告げを聞けるなんて、やはり旦那さまは選ばれた存在……私たちの上に立つに相応しきお方です……♡」
アンナさんはそう言うと、僕に抱きついた後、何度もほっぺにキスしてくる。
うう、恥ずかしい……。
しばらくアンナさんの好きなようにされていると、エレナさんがキッとした目線を僕に向けながら口を開く。
「姉上、そいつの言葉をそのまま信じるのはいかがなものかと。女神様のお告げが聞けるなど、世迷言かもしれません」
「あら、いじわるなことを言ってはいけませんよエレナ。旦那さまがそのような下らない嘘をつくわけがないではないですか」
「姉上はテオドルフを信じ過ぎです。確かに人間の中では、まだ信用できる部類であることは認めますが、なんでも無条件に信用してはですね……」
「エレナこそもっと素直になった方がいいんじゃないですか? 知ってるのですよ、私がお茶を入れている間、鏡で身だしなみを整えていたことくらい。旦那さまに会えるからおめかししていたんですよね?」
アンナさんはお返しとばかりにエレナさんの秘密を暴露する。
でもそれって本当なのかな?
あの厳しいエレナさんが、僕に会うから身だしなみを整えるなんてあまり信じられないんだけど。
アンナさんがからかっているだけなのかな? そう思いながらエレナさんを見てみると、彼女は顔を真っ赤にしながらぷるぷると震えていた。
「あ、姉上!? ななななにを適当なことを言っておられるのですか!! わ、私がこいつと会うために身だしなみを整えるなど、ああああありえません!!」
「素直じゃないんだからまったく。旦那さま、エレナは最近旦那さまが魚人の方々と交流してこちらにいらっしゃれないからしょんぼりしていたのですよ? 領主としての仕事がお忙しいのはよく分かりますが、姉妹のことも、たまには相手にして下さいね?」
「は、はい。分かりました」
「しょんぼりしてなーい!」
エレナさんは子どもみたいに大声で否定する。
うーん、どっちが本当のことを言ってるんだろう? まあでも、確かに最近は魚人の人たちとの交流に多くの時間を割いてたから、アンナさんたちとあまり喋れてなかった。
これからはもっとお話するようにしないとね。
「それで、私たちの里の話でしたね。同族はみなルカ村に移り住んでおりますので、あそこには一人のエルフも残っておりません。ですので私たちがいた頃と変わっていないとは思うのですが……女神様がなにかを感じ取ったのであれば、なにかあるのかもしれません。行ってみる価値はあるかと思います」
「そうですよね。僕も気になるので、一回見に行ったほうがいいかなって思ってました」
不安なことは早く確認し、潰しておきたい。
それになにもなかったらなかったで、帰ってくればいいからね。
「では準備をして、明日にでも向かいましょうか。道案内は私にお任せ下さい。お供いたします」
「当然私も行く。姉上の身と……ついでにお前のことも守ってやろう」
アンナさんとエレナさんが同行を申し出てくれる。
ありがたい。二人がいればとっても心強いからね。
「ありがとう二人とも! それじゃあ明日、よろしくね」
僕の言葉に二人は頷く。
こうして僕たちは、再びエルフの里へ向かうことになるのだった。




